「あれ⁈ 終活してるんだよね?」―親の終活が全然終わらないワケ

番号 125

# 介護録

# 介護の準備

『もう整理しておくから』から3年が経った

先日、親介護に関する話を聞く中で、ある50代の女性から印象的なエピソードを聞きました。

「母が終活を始めると言ったのはもう何年も前なんです。でも、全然終わらないんですよ」

そう言って女性は笑っていました。

お母様が「そろそろ終活を始めようと思うの」と言い出したのは70代後半だったそうです。
親介護に関する記事や本を見るたびに、実家の片付けや遺品整理に苦労したという話を見聞きしていた女性は、「自分から考えてくれているなら安心だ」と思ったと言います。

ところが数か月後に実家を訪れても、家の様子はほとんど変わっていませんでした。

押し入れは満杯、食器棚も満杯、本棚も満杯です。気になって聞くと、「今は写真を整理しているの」と言われたそうです。

しかしその整理が進まない。なぜならアルバムを開くたびに思い出話が始まるからです。

「この旅行の時は大雨だったのよ」
「この人覚えてる?昔よく家に来ていたの」
「あなたが小学校に入学した時ね」

気付けば何時間も昔話が続き、その日も結局一枚も処分できなかったそうです。
介護家族の間では珍しくない話だそうですが、終活は片付けではなく人生の振り返りになることが多いと言われています。

さらに女性が驚いたのは、終活を始めてから物への愛着が以前より強くなったように見えたことでした。
古い湯飲みには夫婦の思い出があり、使わない食器には新婚時代の記憶があり、色あせたハンカチには亡くなった親族との思い出がある。子どもから見れば不要品でも、親にとっては人生そのものなのだそうです。

その女性は「私は片付けを手伝うつもりで行ったのに、途中から母の人生を聞く会になっていました」と話していました。
若い頃の失敗談、父親との出会い、子育て中の苦労など、自分の知らない話が次々に出てきたそうです。

終活というと物を減らすことばかり考えてしまいますが、実際には親が人生を振り返りながら家族へ記憶を引き継いでいく時間でもあるのかもしれません。

その女性は「何も片付かなかったけれど、母の人生を少し知ることができました」と振り返っていました。

終活しているはずなのに、なぜか物が増える

その女性の悩みはそれだけではありませんでした。

終活が始まって数年経った頃、実家へ行くたびに新しい物が増えていることに気付いたそうです。
防災用品、健康器具、収納ケース、ガーデニング用品、通販で購入した便利グッズ。終活しているはずなのに、なぜか家の中は以前より賑やかになっているように見えたと言います。

ある日ついに女性は「終活するって言ったよね?」と聞いたそうです。

するとお母様は不思議そうな顔で「だから終活しているのよ」と答えたと言います。
最初は意味が分からなかったそうです。
しかし詳しく聞くと、防災用品は災害時に家族へ迷惑をかけないため、健康器具はできるだけ介護を受けずに暮らすため、収納ケースは整理を進めるために買ったとのことでした。つまり本人の中では全て終活の一部だったのです。

介護家族からすると、終活とは物を減らすことです。
しかし親世代の中には、終活を「これからも自立して生きるための準備」と考えている人も少なくないと言われています。
そのため家族は「減らしてほしい」と思い、親は「将来のために備えている」と考える。ここに大きな認識の違いが生まれるそうです。

さらに高齢になるほど「子どもに迷惑をかけたくない」という思いが強くなるとも言われています。だから健康器具を買う。
だから防災用品を買う。だから便利グッズを買う。本人は家族のためを思っているのです。しかし子どもから見ると、「また増えている」になる。まさに親介護あるあるです。

女性は途中から考え方を変えたそうです。物を減らすことだけを目的にすると衝突が増える。それよりも「なぜ買ったの?」と聞くようにしたと言います。

すると見えてきたのは、親の不安でした。一人暮らしへの不安、病気への不安、老後への不安、そして家族に迷惑をかけることへの不安です。終活とは物を整理する作業ではなく、不安と向き合う作業でもあるのだと気付いたそうです。

本当に残したかったもの

そんなお母様が80代に入った頃のことです。
ある日突然、「ちょっと座りなさい」と言ったそうです。そして引き出しから一つの封筒を取り出しました。

中には通帳のコピー、保険の資料、契約関係の書類、緊急連絡先の一覧が入っていたそうです。
女性は驚いたと言います。それまで何年も終活の話を聞いてきましたが、こうした大切な話は一度もなかったからです。

お母様は一つひとつ説明を始めました。
「これは保険」「これは銀行」「何かあったらここに連絡してね」。
そして最後にこう言ったそうです。

「本当はもっと早くやろうと思っていたのよ」

その言葉を聞いた時、女性は初めて気付いたと言います。母親は終活をしていなかったわけではない。ずっと考えていた。
ただ、自分がいなくなった後のことに向き合う覚悟がなかなかできなかっただけだったのです。

考えてみれば当然かもしれません。
終活とは、自分がいなくなった後のことを考える作業です。
簡単にできることではありません。

誰だって先送りしたくなるものです。だから途中で止まる。だから何年もかかる。
だから家族から見ると何も進んでいないように見えるのです。
しかし、その根底には共通した思いがあります。

「子どもに迷惑をかけたくない」

先日話を聞いた女性は最後にこう言っていました。

「母は今も終活中です。でも最近は終わらなくてもいいと思えるようになったんです」

アルバムを見ながら昔話をすることもある。
片付けの途中で手が止まることもある。
新しい物を買ってしまうこともある。それでも親が元気に暮らしている。
その当たり前の日常こそが、今は何より大切なのだそうです。

親介護では、つい「早く片付けてほしい」「もっと準備してほしい」と思ってしまいます。
しかし終活が終わらない理由の中には、親が歩んできた人生そのものが詰まっています。

もし親御さんが「終活する」と言いながら何年も終わっていないなら、一度ゆっくり話を聞いてみてはいかがでしょうか。
片付けは進まなくても、その時間の中にしか聞けない親の人生や想いが残されているのかもしれません。

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