「親介護を“待つ時代”は終わった―自分で整えるパーソナル介護という選択」
番号 94
制度任せにしない新しい親介護の考え方
先日、ケアマネ不足が原因で介護の相談体制が維持できなくなっている地域が増えているというニュースを目にしました。
報道によれば、全国的に居宅介護支援事業所の閉鎖や休止が続き、町や村の中に「介護の相談先が存在しない」状態が生まれているとのことでした。
実際、事業所が一つもない自治体も確認されており、住民は隣接する市町村に頼らざるを得ない状況に置かれているそうです。
ケアマネ不足という言葉は以前から耳にしていましたが、ニュースを読んで印象的だったのは、それが制度の内部問題ではなく、親介護をする家族の生活そのものに影響しているという点でした。
親の体調に変化があっても、すぐに相談できる相手がいない。電話がつながりにくい。担当者が多忙で十分な話ができない。こうした声が現場から紹介されていました。
親介護は、ある日突然始まります。
入院や転倒、認知機能の低下をきっかけに、子世代は急に判断を迫られます。そのとき頼りにしたい専門職が身近にいない、あるいは余裕がないという状況は、家族にとって大きな不安です。
これまで当たり前だった「まず相談すれば道筋を示してもらえる」という前提が、少しずつ崩れ始めていることを、このニュースは示していました。
もちろん、介護保険制度そのものが機能しなくなったわけではありません。
しかし、ケアマネ不足という現実が進む中で、すべてを任せきる介護モデルが限界に近づいていることは否定できないでしょう。
こうした状況を受け、これからの親介護では、制度を活用しつつも、家族自身が介護の形を主体的に整えていく姿勢が求められているのではないかと感じました。

ケアマネ不足が映し出す親介護の構造変化
ケアマネ不足は、単なる人手不足の問題ではありません。
高齢者人口の増加に対して、介護を調整・設計する専門職の数が追いついていないという、構造的な変化の表れです。
厚生労働省の推計でも、介護分野全体で人材確保が難しい状況は今後も続くとされています。
その影響は、親介護の現場に静かに広がっています。相談までに時間がかかる、担当者が頻繁に変わる、細かな生活背景まで踏み込んだ支援が難しい――こうした状況は、家族に「任せきれない」という感覚を生み始めています。
特に在宅介護で、親の生活習慣や家族関係、住環境など、個別性の高い配慮が欠かせません。
しかし、ケアマネ不足により一人あたりの担当件数が増えると、どうしても画一的な対応になりやすくなります。
その結果、「制度上は問題ないが、生活としては苦しい」というズレが生じてしまうのです。
このズレこそが、これからの親介護を考える上での重要なポイントです。
こうした状況の中で注目されているのが、パーソナル介護という発想です。これは、ケアマネにすべてを委ねるのではなく、家族が中心となって介護チームを組み立て、自宅を介護に適した環境へ整えていく考え方です。
訪問介護、訪問看護、リハビリ、福祉用具、住宅改修などを、親の状態や家族の生活に合わせて選び、組み合わせていきます。ケアマネは重要な存在であり続けますが、「すべてを決めてもらう存在」から「一緒に考えるパートナー」へと役割を捉え直すことが、パーソナル介護の特徴です。
親介護を家族の負担に戻すという意味ではありません。むしろ、主体的に関わることで、親の希望や価値観を反映しやすくなり、結果として介護の質と満足度が高まるという研究報告もあります。生活の延長線上に介護を位置づけることで、「その人らしい暮らし」を守ることができるのです。

親介護を支える「パーソナル介護」はこうしてつくられる ―介護家族が動いた3つの事例と実践手順
パーソナル介護と聞くと、「専門知識がないと難しそう」「結局は介護の負担が増えるのでは」と感じる方も多いかもしれません。しかし実際には、特別な資格や経験がなくても、手順を踏めば誰でも構築できる仕組みです。ここでは、親介護に直面した介護家族がどのようにパーソナル介護を形にしていったのか、具体的な事例を交えながら、その流れを紹介します。
ある50代の女性Aさんは、実家で一人暮らしをしていた母親が転倒をきっかけに要介護状態となり、在宅での親介護を始めました。当初は制度のサービスを利用していましたが、ケアマネ不足の影響もあり、相談や調整に時間がかかることに不安を感じていました。そこでAさんは、「すべてを任せる」のではなく、「自分が全体を把握する」ことを意識し、パーソナル介護の構築に踏み出します。
最初の手順は、親の生活と困りごとを書き出すことでした。歩行時の不安、夜間のトイレ、入浴時の転倒リスク、食事の準備など、日常生活を時間帯ごとに整理します。ここで重要なのは、「介護が必要かどうか」ではなく、「生活のどこに不安があるか」という視点です。この整理が、パーソナル介護の設計図になります。
次にAさんが行ったのは、役割ごとに専門家を考えることでした。身体機能については理学療法士、医療面は訪問看護、日常生活のサポートは訪問介護、環境面は福祉用具専門員といった具合に、「誰が何を支えるのか」を分解して考えます。この時点で、ケアマネは全体をまとめる唯一の存在ではなく、チームの一員という位置づけになります。
三つ目の手順は、自宅を介護環境として整えることです。Aさんは、福祉用具専門員に相談し、手すりの設置やベッドの配置を見直しました。さらに、夜間の見守りとしてセンサーを導入し、「何かあったら通知が来る」環境を整えたことで、家族の精神的負担が大きく軽減されました。自宅を「そのまま介護する場所」にするのではなく、「介護しやすい環境に変える」ことが、パーソナル介護の核となります。
別の事例として、遠方に住みながら親介護を行う60代の男性Bさんのケースがあります。Bさんは平日は仕事があり、頻繁に実家へ通うことができませんでした。そこで、オンラインツールを活用し、訪問看護師やヘルパーとの情報共有をデジタル化しました。日々の体調や服薬状況、生活の変化が記録され、Bさんはスマートフォンで確認できるようになりました。これにより、「離れていても介護チームの一員でいられる」状態が実現しました。
このように、パーソナル介護の構築は次の流れで進められます。
親の生活を細かく観察し、不安を書き出す。
必要な支援を役割ごとに分けて考える。
自宅を介護に適した環境へ整える。
情報共有の仕組みをつくり、家族もチームに入る。
これらを一度に完璧に行う必要はありません。親介護は変化の連続です。大切なのは、「今の状態に合った介護チームを、その都度つくり直す」という柔軟な姿勢です。
ケアマネ不足が進む中で、すべてを誰かに委ねる介護は難しくなっています。しかし、パーソナル介護は、介護家族が孤立することを意味しません。むしろ、自分で選び、つなぎ、整えることで、親介護の主導権を取り戻す方法だといえるでしょう。
親の生活を守りながら、自分自身の生活も守る。そのための現実的な選択肢として、パーソナル介護を少しずつ構築してみてはいかがでしょうか?
