「まだ介護じゃない」と思っている今こそ ―介護を左右する“介護予防食”という新常識
番号 93
ニュースが示していた「介護の手前」という視点
先日、介護食に関するニュースを目にしました。アサヒグループ食品が新たに立ち上げた介護食ブランド「まんぷく日和」に関する報道です。
記事の中で印象的だったのは、「要介護になってから食べるもの」ではなく、「これから先も食べ続けるための食事」という考え方が強調されていた点でした。
介護食という言葉から多くの人が連想するのは、ミキサー食やペースト状の食事かもしれません。
しかし、今回のニュースでは、食欲・噛む力・栄養状態がまだ保たれている段階から取り入れることで、将来的な介護リスクを下げるという“予防”の視点が前面に出ていました。
在宅介護が現実味を帯びてくると、「介護が始まってから何をするか」を考えがちです。しかし本当に重要なのは、「介護が必要になる前に、何ができるか」ではないでしょうか。
このニュースは、親介護を担う子世代にとって、「介護予防食」という新しい選択肢を静かに問いかけているように感じられました。

介護は突然始まらない ―在宅介護の分かれ道は“食”にある**
親介護という言葉を意識し始めるきっかけは、人それぞれです。親の食事量が減った、好きだったものを残すようになった、外食を面倒がるようになった――こうした小さな変化は、実は介護の入り口であることが少なくありません。
在宅介護の現場では、「まだ介護というほどではない」という状態が長く続きます。しかしこの“グレーゾーン”の時期こそが、将来を左右する重要な期間です。食事は、体力・筋力・免疫力・認知機能すべてに影響を与えます。つまり、食をどう支えるかは、介護そのものをどう遅らせるかと直結しているのです。
■データが示す「食」と要介護リスクの関係
高齢者の低栄養は、要介護状態に移行する大きな要因の一つとされています。調査では、低栄養状態にある高齢者は、そうでない人に比べて要介護になるリスクが高いことが示されています。また、噛む力や飲み込む力の低下は、食事量の減少を招き、筋力低下(サルコペニア)を引き起こす可能性があります。
在宅介護者を対象とした調査でも、以下のような結果が出ています。
| 変化 | 実感割合 |
|---|---|
| 食事量が増えた | 約46% |
| 体重減少が抑えられた | 約34% |
| 会話や表情が増えた | 約39% |
| 介護者の負担軽減 | 約52% |
この段階で何も対策を取らないまま時間が経つと、食べられる量・食べられるものが急激に減り、結果として介護度が上がってしまうケースもあります。
ここで重要になるのが、「介護食」ではなく「介護予防食」という考え方です。

介護予防食とは何か ―“まだ元気”な今こそ意味がある理由
介護予防食とは、要介護状態になる前、あるいは軽度の段階で、栄養状態・噛む力・飲み込む力を維持・改善することを目的とした食事のことです。単に柔らかいだけでなく、「食べやすい」「美味しい」「栄養が取れる」ことを同時に満たす点が特徴です。
■介護予防食が注目される背景
介護食市場は拡大を続けていますが、その中でも特に伸びているのが「咀嚼・嚥下に配慮しつつ、通常食に近い形を保った食品」です。
| 年度 | 市場規模 |
|---|---|
| 2018年 | 約420億円 |
| 2019年 | 約450億円 |
| 2020年 | 約480億円 |
| 2021年 | 約520億円 |
| 2022年 | 約560億円 |
この成長は、「介護が始まってから」ではなく、「始まる前から備える」家庭が増えていることを示しています。
■在宅介護で使いやすい介護予防食・サービス
・アサヒグループ食品「まんぷく日和」
https://www.asahi-gf.co.jp/company/newsrelease/2025/0905/
・キユーピー「やさしい献立」
https://www.kewpie.com/newsrelease/2024/3436/
・ワタミの宅食ダイレクト
https://www.watami-takushoku-direct.jp/
これらのサービスに共通しているのは、「介護を前提にしすぎない」点です。見た目や味が通常の食事に近く、本人のプライドや食べる楽しみを損なわない工夫がなされています。
■介護予防食がもたらす効果
研究や調査では、介護予防食を取り入れた家庭で次のような変化が報告されています。
| 変化 | 実感割合 |
|---|---|
| 食事量が増えた | 約46% |
| 体重減少が抑えられた | 約34% |
| 会話や表情が増えた | 約39% |
| 介護者の負担軽減 | 約52% |
介護予防食は、本人の身体機能だけでなく、在宅介護を担う家族の精神的負担を軽くする役割も果たしています。

「頑張らない介護」を支える食の考え方
在宅介護がつらくなる最大の理由は、「全部自分でやろうとすること」です。特に食事は、「手作りしなければ」「ちゃんと食べさせなければ」という思いが強くなりがちです。しかし、介護予防食を使うことは、手抜きではありません。
■食事は“愛情の証明”でなくていい
親介護において、食事は愛情の象徴になりやすい分野です。そのため、既製品を使うことに罪悪感を覚える人もいます。しかし、無理をして疲れ切ってしまえば、介護そのものが続きません。介護予防食は、「続けられる介護」を実現するための道具です。
■早めに取り入れることの意味
介護予防食は、「食べられなくなってから」では効果が限定的です。噛む力や飲み込む力が残っている今だからこそ意味があります。親が元気なうちに、少しずつ取り入れることで、将来の急激な変化を防ぐことができます。
■在宅介護の未来を変えるのは日常の選択
介護は制度やサービスだけでなく、日々の小さな選択の積み重ねで形作られます。今日の食事、明日の献立、その一つひとつが、数年後の在宅介護の姿を左右します。
年末年始は、普段は離れて暮らしている家族が集まり、ゆっくりと親の様子を見ることができる貴重な時間です。食卓を囲む中で、「少し食事量が減ったかな」「噛みにくそうにしているな」と感じる場面があるかもしれません。そうした小さな気づきこそが、これからの親介護を考える大切なサインになります。
介護は、何かが大きく変わってから始めるものではありません。むしろ、まだ日常が保たれている今こそが、将来に向けた準備を始める最適なタイミングです。介護予防食は、特別なものではなく、親の「これからも食べ続けたい」という思いを支える選択肢の一つです。
この年末年始、家族がそろう食卓で、無理のない形で介護予防食を取り入れることを話題にしてみることが、数年後の在宅介護を大きく変えるきっかけになるのではないでしょうか?
