「親が“もの忘れ”を始めたら備えるべきお金 — 認知症リスクと介護資金のリアル」
番号 81
親の認知症に備えるお金の整え方
先日、「日本の高齢者の介護費用が2023年度、11兆5,139億円に達し、前年度比2.9%の増加」という報道を見ました。
要介護となる原因の第一位が「認知症」であることは、以前から指摘されていました。
母も認知症初期の頃、銀行のパスワードを何度も間違え、その度再発行の手続きに同行しましたが、段々銀行員の質問にもあやふやになり、あわや‟口座凍結”にありそうになったことを思い出しました。
パスワードのトラブル段階で対処できれば、まだ防ぎようもありますが、何度も銀行に駆けつけた段階で疑いをもたれ自分の意思管理が脆弱であると判断されたとなれば、お金回りは一気に自分にのしかかってくる可能性が高まります。
そういった懸念からも、親が認知症を疑われる段階から、将来的な介護費用をどう賄っていくかというお金の問題を、家族として真剣に備えておく必要性が非常に高まっているということを実感します。
認知症は進行性の疾患であり、時間とともに介護コストや医療費、生活支援費が重くのしかかってきます。
社会全体の認知症による負担についても、医療費や介護費だけでなく、家族が無償で担うケア(無償介護)のコストが大きな割合を占めており、これが社会的コストとしても膨大であることが研究で示されています。
介護家族にとって重要なのは「不確定な未来」に対して、できるだけ早く備えを始められるか?であり、逆を言えば親のお金を勝手に管理できない以上、備えの情報を親に与え続けることぐらいしか、家族としてサポートしてあげられることはありません。
認知症を疑い始めた時点で資産の整理、制度の理解、保険・信託の選択肢を考えておくことで、親介護が本格化したときの金銭的なストレスに慌てふためかなくて済み、一瞬の面倒が一生の面倒を回避する‟最善の近道”であることは、火を見るより明らかな事実であるのではないでしょうか?

認知症でかかるお金の実態を知る
まず、認知症が進行したときにどのくらいのお金がかかるのかを、家族として理解しておく必要があります。
介護費用、医療費、そして家族が無償で提供するケア(インフォームアルケア)のコストを見積もっておくことで、備えの方向性が明確になります。
厚生労働省の調査によると、高齢者の介護給付費(介護保険を使ったサービス分+利用者自己負担を含む)は、2024年度に 11兆9,381億円 に達しました。
要介護者1人当たりの平均費用(月額)は約 20万6,300円 という数字も示されており、介護が必要な段階に入ると相当な支出になる可能性があります。
また、先に挙げた通り、認知症が要介護の主な原因であることも見逃せません。
認知症患者のケアにかかる社会的コスト(医療費+介護費+家族ケアの価値)を慶應大学などの研究チームが分析したところ、2014年時点で 14.5兆円 に上るという報告もあります。
そのうち、家族が無償で提供するケア(インフォーマルケア)が非常に大きな部分を占めているのも特徴です。
さらに、家族の介護負担を貨幣価値で見積もった研究でも、2001年〜2013年の間に、無償で介護を提供する家族のコストが 0.66兆円から1.49兆円へと大幅に増加しており、介護家族側の金銭的影響も見過ごせないという実態があります。
認知症のリスクが出てきた段階で、これらの数字を「対岸の火事」ではなく、親介護を担う家族自身の家計にどう響くかを考えることが、備えの第一歩です。

認知症リスクに備えるお金対策の具体策
親介護という観点で、認知症を疑い始めたときにお金面で備えるための具体策を整理します。
ここでは、「信託(家族信託・後見制度支援信託)」「保険」「資産整理・生活資金確保」の三つの軸で考えます。
◾️信託を活用した資産管理
認知症になると、判断能力の低下により財産の管理が難しくなる可能性があります。
そのとき「資産が凍結される」「引き出しができなくなる」といったリスクがあります。
このリスクを軽減する手段として 家族信託(民事信託) があります。信頼できる家族を「受託者」として設定し、財産管理を任せることができます。
例えば、大和証券の民事信託サービスでは、受託者(家族)が認知症になる前から財産の管理・処分を行えるよう設計が可能です。
また、「おやとこ」という信託サービスでは、認知症による資産凍結への備えを想定して作られており、家族信託の専門家が関与する形で安心して利用できる仕組みがあります。
URL:https://trinity-tech.co.jp/oyatoko/?utm_source=chatgpt.com
信託の中でも、 後見制度支援信託 は、家庭裁判所の後見制度を利用中の人向けに財産を信託して管理する制度です。
三菱UFJ信託銀行が提供する後見制度支援信託では、信託金は家庭裁判所の指示書に基づいて使われる設計になっており、安全性が高められています。
URL:https://www.tr.mufg.jp/koukenseidoshien/koukenseidoshien_01.html?utm_source=chatgpt.com
りそな銀行や京都銀行など他銀行でも類似の信託サービスがあります。
さらに、みずほ信託銀行には「認知症サポート信託」という専用サービスがあります。
URL:https://www.mizuho-tb.co.jp/succession/ninchisho_support/shikumi.html?utm_source=chatgpt.com
このサービスには、認知症と診断された後に公共料金や日用品購入などの定期的な支出を管理する「自動振替サービス」や、高額な介護費用への支払いをモニタリングする「お支払チェックサービス」などが含まれています。
◾️保険を使った備え
認知症のリスクとその進行に伴う出費に備える金融商品として、「認知症保険」があります。
以下は具体的な企業・プランの例です。
• ニッセイ(日本生命) の「みらいのカタチ 認知症サポートプラス」
終身・有期で、認知症および軽度認知障害(MCI)を保障。一時金を受け取ることができ、親介護時の資金確保に使えます。
URL:https://www.nissay.co.jp/kojin/shohin/seiho/mirainokatachi/ninchisyo/?utm_source=chatgpt.com
• ライフネット生命 の「認知症保険 be」
MCI や認知症診断時に一時金が出る保険。認知機能の低下の早期ステージに備える設計が特徴です。
URL:https://www.lifenet-seimei.co.jp/product/dementia/?utm_source=chatgpt.com
• SOMPOひまわり生命 の「笑顔をまもる認知症保険」
軽度認知障害・認知症診断時に一時金。終身タイプもあり、家族の負担に備える。
https://www.himawari-life.co.jp/product/ninchi/?utm_source=chatgpt.com
• 大樹生命 の「大樹セレクト 認知症ガード ケアα」
軽度認知障害を含む段階からの通院・治療、認知症発症後の費用をサポート。
https://www.taiju-life.co.jp/products/taiju_ninchi.htm?utm_source=chatgpt.com
• 朝日生命/あんしん介護 の「認知症介護一時金保険」
要介護1以上および所定の認知症で一時金を受け取るタイプ。最大1,000万円まで設定可能。
https://anshinkaigo.asahi-life.co.jp/products/anshinninchisho/?utm_source=chatgpt.com
• りぼん認知症保険
太陽生命・朝日生命などが提供。認知症によるトラブル(たとえば事故)まで想定した保障も含まれる。
URL:https://www.ribon.com/lp_3/?utm_source=chatgpt.com
保険を選ぶ際は、保険料、保障内容、支払い条件(診断・要介護など)、契約年齢などを家族で十分に検討し、親介護にかかる実際の資金需要をイメージしたうえで最適なプランを選ぶことが重要です。
◾️資産整理と現金・流動資金の確保
認知症リスクを見越したお金の準備には、資産の整理も不可欠です。
預貯金、不動産、保険など、親が持っている資産をリストアップし、どのくらいを生活費・介護費用に回せるかを把握します。
また、信託や保険だけでは日常の支出がまかなえない場合に備えて、 流動資金(手元現金)を一定額確保しておくことも重要です。
これは、急な介護費・医療費・施設費・緊急費などに対応するためです。
さらに、将来的な相続や財産承継を考えた 相続対策 として、信託と組み合わせたプランニングをするのも効果的です。たとえば、信託設定時に受益権の承継方法を決めておくと、認知症になってからも家族が資産管理を続けられます。
信託や相続の設計には専門家(司法書士・信託銀行・ファイナンシャルプランナーなど)を活用することをお勧めします。

備えた資金を活かす運用・管理とリスクコントロール
親が認知症になるリスクに備えて準備したお金を、実際に運用・管理し、将来にわたってリスクをコントロールする方法を考えます。
1、運用と管理のバランス
信託で資産を託す場合、預けた資産をただ「そのまま放置する」のではなく、必要に応じて運用を検討することができます。
ただし、高リスクな投資をすべきかは慎重に判断が必要です。
信託先を銀行(信託銀行)にする場合は比較的安全性が高く、元本割れリスクを抑えつつ、定期的な信託報酬や管理コストを見積もっておくことが重要です。
また、余裕資産がある場合は、低リスクの運用(債券、公社債、定期預金など)を一部活用して、インフレリスクや将来的な支出増加に備える方法もあります。
2、モニタリングと見直し
認知症リスクを見越したお金の備えは、作ったら終わりではなく、定期的な見直しが必要です。
具体的には:
• 信託契約の見直し:信託を設定しても、家族構成や財産状況は将来的に変わる可能性があります。受託者(=信託を管理する人)や信託内容(取り崩しのルール等)を定期的に検討し、必要に応じて契約を修正します。
• 保険の保障内容チェック:契約時には想定していた支出と現実の支出がずれてくる可能性があります。介護・医療にかかる費用が増えれば、保障額や一時金の設計を見直す必要も出てきます。
• 家族の収支見通し:親介護が始まると、家族の収支にも影響が出ます。保険料、信託報酬、介護費などを含めたキャッシュフロー計画を作成し、将来に備えましょう。
3、リスク対策と安心を強める仕組み
備えたお金を無駄にしないよう、リスクコントロールの仕組みも構築しておきます。
• 透明性の確保:信託を利用する場合、受託者には家族以外の信託銀行を選ぶ選択肢もあります。
これにより、第三者によるチェックが入り、運用の透明性が高まります。
• 受託者の信頼性:受託者となる家族は財産管理の知識や信用力が必要です。
信託契約を結ぶ際には、受託者の責任や義務を明文化し、合意を明確にしておきます。
• 制度の併用:信託だけでなく、成年後見制度を併用することで、法的な保護を強めることが可能です。
成年後見制度を利用している場合は、後見制度支援信託を併せて使うケースもあります。
• 遺言と相続設計:将来の相続を見据えて、遺言書の作成や信託による承継設計を行っておくことで、認知症発症以降の資産の流れを整えられます。
親の介護費用に関しては、いずれにしても何らかの管理対策を立てなければならなくなるので、早いうちに明らかにしてしまった方が、自身の‟精神的安定剤”になるのではないでしょうか?
