「もう一度、一緒に旅を」――親介護世代のための新しい家族旅行のかたち
番号 79
バリアフリー対応・同行サポート・事前準備を整えた旅プランで、家族のひとときを“旅”として楽しむ
先日、福岡市の旅行会社が、身体的に移動が困難な高齢や難病の方と、そのご家族を対象にした“介護付きツアー”のニュースをみました。
記事では、88 歳・車椅子生活の母と娘・姉・叔母が“女子会旅”に出かけたというエピソードが紹介されており、移動中のトイレや休憩の配慮、温泉の貸切設備、食事の内容にまで細かく配慮されていました。
その中で旅行を企画・実行した担当者は、「高齢化が進む中で、介護を受ける方・介護をする家族ともに『もう一度一緒に旅をしたい』という想いが非常に強く存在している」と語っており、実際に「旅行を諦めていたけれど行けた」「家族の笑顔が見られた」という声が紹介されていました。
私も以前、半身不随の父親から「温泉に入りたい」と言われ、当時バリアフリーが一般的でなかった時代に必死で障害者でも入れる宿を探し、行ってみたものの居合わせた別の宿泊客から「邪魔だから別の風呂に行って欲しい」と言われ、金額が倍以上する風呂付の個室に移動したという苦い経験を思い出しました。
その声を聞いた父は、温泉に入りたい欲よりも周りの宿泊客に迷惑をかけていること、自分の不自由さは世間ではすっかり邪魔な存在なのだ、と自尊心を傷つけられ、せっかくの旅行も「早く帰りたい」と言い始め、その後二度と旅行に行くことはありませんでした。
当時、父の介護で疲れ果てていた母親の気分転換も兼ねて企画した旅でしたが、余計ストレスを抱えて帰ってくる結果となってしまいましたが、昨今では介護士の方が同行してくれるような介護者向けプランなどもでき、少しでもお互いリフレッシュできる時間を持てるチャンスが増えてきたのだ、と感じました。
「介護があるから旅をあきらめる」のではなく、「介護があるからこそ、旅を少し手直しして楽しむ」という選択が、十分可能であるということです。

「親介護があっても実現できる旅のプラン」
親もさることながら同行する私達も普段以上の配慮や体力・気力が必要となります。
旅のポイントになるのは移動・宿泊・同行・安全性・体力配分などを考慮する必要があります。
これらを加味した具体的な旅のプラン例を3つのスタイルでご紹介します。
■ プランA:ショートトリップ(1泊2日)
– 目的地:温泉地(例:軽井沢・箱根・伊豆などアクセス良好な場所)
– 移動手段:電車+介護タクシーまたはレンタカー(運転疲れを軽減)
– 宿泊:バリアフリー対応の温泉旅館(車椅子対応客室、多目的トイレ、貸切風呂など)
– 日程例:
・初日 午前 自宅出発 → 昼頃到着・ゆったり昼食
・午後 館内散策または旅館近隣散歩(段差少なめ)
・夕方〜夜 温泉入浴(貸切・リフト対応)、夕食は好物を事前リクエスト
・翌日 朝食後、旅館出発 → 観光地短時間訪問 → 午後ゆっくり帰宅
– 費用感目安:付き添いサービスを受ける場合、1日8時間同行でおおよそ2万~4万円が基本料金の目安。
宿泊・移動・食事・介護タクシー等を含めると、1泊2日でおおよそ **7万円~10万円程度** が十分に想定されます。
– ポイント:無理をしない“1泊”ながら、「親との旅」を体験しやすい。移動時間・疲労の抑制が鍵。
– URL例(参考):https://onsen.barrierfree-plus.net/ (バリアフリー温泉の宿紹介サイト)
■ プランB:日帰り+お泊まりセット(2日間)
– 目的地:近距離の観光地(例:鎌倉・箱根・淡路島など)
– 移動手段:自家用車または介護タクシーを手配して「日帰り観光+旅館泊」形式
– 日程例:
・初日 午前 自宅出発 → 観光地でランチ・短時間散策 → 夕方旅館到着・温泉&夕食
・翌日 朝食後、旅館でゆったり過ごしながら帰路へ
– 費用感目安:例えば日帰り~一泊付きで、観光・宿泊・食事含めて **10万円前後~15万円程度** を見込むのが現実的です。
– ポイント:観光に“少し”注力できる形式。親介護の負担を軽くしながらも“旅感”を出したい方に。
– URL例(参考):https://kaigo-ryoko.com/ (介護付きバリアフリー観光ツアー例サイト)
■ プランC:ミニ記念旅行(2泊以上)
– 目的地:少し遠出(例:地方の温泉旅館・海辺のリゾート・テーマパーク近く)
– 移動手段:新幹線+在来線または長距離バス+介護タクシー、またはレンタカー同行
– 宿泊:初日・2泊目ともバリアフリー重視+“親と子/孫”合わせた家族構成に配慮
– 日程例:
・1日目:出発・移動・地元名物の昼食・宿泊先到着・温泉・夕食
・2日目:ゆったり朝〜昼、近隣観光(短時間)→ 夕方宿戻り・夕食
・3日目:朝食後チェックアウト・移動しながら軽い観光 → 昼過ぎ〜夕方帰宅
– 費用感目安:少し長め・手厚めの内容になるため、ある実例では1泊2日で約 296,700円(約1人あたり98,900円)というプランも報告されています。
さらに2泊3日・遠方・飛行機利用などを含めると、50万円以上になるケースも紹介されています。
– ポイント:少し余裕を持って“親介護状態でも旅できる”環境を整えたい方向け。準備・サポート体制がより重要。
– URL例(参考):https://www.reeve.jp/(介護タクシー+旅行支援サービス)

‟親介護旅行”で人気の宿泊地3選
1.箱根湯本温泉(神奈川県)
【おすすめ理由】
関東からアクセスがよく、新幹線・小田急線・車のいずれでも移動時間が短くて済むため、親への身体的負担を軽減できます。
温泉地として老舗旅館が多く、バリアフリールーム・スロープ・貸出用車椅子・貸切風呂などを完備している宿が豊富です。
箱根は「バリアフリー観光地」としても整備が進んでおり、実際に神奈川県観光協会が「高齢者・介護が必要な方向け観光モデルコース」を公開しています。
観光地への移動もスローペースで楽しめるため、親介護世代の旅行先として非常に人気があります。
【おすすめ宿の一例】
・「ホテルおかだ」(神奈川県足柄下郡箱根町湯本)
エレベーター・スロープ・段差の少ない客室あり。貸切風呂の介助入浴サポートも可能。
URL:https://www.hotel-okada.co.jp/
・費用目安:1泊2食付きで1人あたり 18,000円~25,000円前後(平日料金)
【介護旅行のポイント】
・現地の坂道や階段が多いので、車・送迎バス・旅館の送迎を活用
・温泉入浴は無理せず、貸切風呂を家族だけで利用
・滞在時間を長めにとり、「観光を詰めすぎない」スケジュールが安心です
2.伊豆長岡温泉(静岡県)
【おすすめ理由】
伊豆エリアは、温泉街全体に「段差が少ない道」「手すり付きの温泉施設」「車椅子対応の旅館」が多く、
介護旅行専門会社でもよく紹介される人気エリアです。
東京から新幹線+タクシーで約2時間程度とアクセスも良く、長距離移動が苦手な高齢の親にも安心です。
観光地としては、**伊豆の国パノラマパーク(ロープウェイで上がる展望台)**や、韮山反射炉など、歩行距離が短くても楽しめるスポットが多いのも魅力です。
【おすすめ宿の一例】
・「ホテル天坊」
客室はすべてユニバーサルデザイン仕様。車椅子利用の方にも配慮されたお部屋。
車椅子用リフトが設置された貸切風呂「うかれ雲」
高台に位置し、窓から富士山・伊豆の山々が見える客室あり。ゆったりとした滞在が可能。
駅からの送迎あり(駅到着時要連絡)/駐車場あり。アクセス面も安心。
URL:https://www.izu-tenbo.com/
・費用目安:スタンダードな部屋・食事付きプランでは、1人あたり 24,200円~26,400円 程度〜
【介護旅行のポイント】
・バリアフリー対応かどうかを予約時に確認(段差・風呂・トイレ)
・観光よりも「宿でのんびり過ごす」プランが最適
・介護タクシー利用も可能(地元業者:伊豆の国市「介護タクシーいず」など)
3.おごと温泉(滋賀県)
【おすすめ理由】
琵琶湖のほとりに位置するおごと温泉は、関西圏からのアクセスが良く、静かで落ち着いた雰囲気が魅力です。
京都駅から電車で約20分ほどと短距離で行けるため、「日帰り+1泊」の気軽な介護旅行にも最適です。
宿泊施設の多くがユニバーサルデザイン対応客室・手すり付き浴室・食事時の介助サポートを用意しており、
「親介護世代が安心して泊まれる宿」として人気が高まっています。
【おすすめ宿の一例】
・「びわ湖花街道」
全館バリアフリー対応。館内段差ほぼなし。手すり付き貸切風呂・車椅子貸出可。
URL:https://www.hanakaido.co.jp/
・費用目安:1泊2食付きで1人あたり 20,000円~28,000円前後
【介護旅行のポイント】
・湖畔側の部屋を予約すれば、外出せずに美しい景色を楽しめる
・旅館の送迎サービスを活用して、移動の負担を軽減
・食事は個室や部屋食対応を選ぶことで、親の体調に合わせてゆったり過ごせる
親介護をしている子世代にとって、一緒の旅というと「今は無理かもしれない」「面倒だ」と思いがちかもしれません。
しかし、旅は“特別”なものではなく、「親と少し環境を変えて一緒に過ごす時間」と捉えれば、準備と配慮次第で十分に実現可能です。
「行ける時に行く」、「孝行できる時に孝行する」というものは、今後のお互いの人生にとってきっと深い意味をもたらすものだと考えます。
ぜひ、親介護という役割があっても旅をあきらめず、家族としての時間を旅で豊かにしてみてはいかがでしょうか?

■本文中で紹介した参考サイト:
(※注意:ここで提示した費用感およびプランは、サービス内容・人数・介護度・移動距離・宿泊施設ランクなどにより大きく変動します。
実際にご検討の際は、複数の旅行会社・介護付き旅行サービスの見積もりを比較することをお勧めします。)
[1]: https://barrierfree.t-life.co.jp/navi/732/?utm_source=chatgpt.com "介護旅行を快適に!要介護者・高齢者向「介護 ... - バリアフリー旅行"
[2]: https://www.club-t.com/sp/special/japan/generation/?utm_source=chatgpt.com "【65歳以上限定】国内の旅・ツアー - クラブツーリズム"
[3]: https://mattaritabi.jp/?utm_source=chatgpt.com "個人・高齢者・車いすでも楽しめる国内旅行ツアー|まったりたび ..."
[4]: https://kaigo-travel.jp/?utm_source=chatgpt.com "高齢者・障がい者の方向け介護旅行なら日本介護トラベルサービス"
[5]: https://www.tokyohakuzen.co.jp/media/98?utm_source=chatgpt.com "高齢者が無理なく旅行を満喫するために。おすすめの旅行 ... - 東京博善"
[6]: https://www.sinenth.co.jp/monisuta/column/senior-travel-without-walking/?utm_source=chatgpt.com "高齢者の「歩かない旅行」におすすめの観光地は?宿泊プランや ..."
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