静かに進む“シニアシフト”── “アクティブシニア”が動かす100兆円市場
番号 76
人生100年時代、60代からの挑戦が社会を変える
先日、「70代女性、趣味の料理動画でYouTube登録者10万人突破!」というニュースを見て思わず目を疑いました。
その方はもともと主婦で、孫に勧められてスマホで動画を撮り始めたのがきっかけで、最初は操作に戸惑いながらも、「誰かの役に立てたら」と続けるうちに人気チャンネルに成長したそうです。
また、最近では定年後に第二の人生を模索する中で、「もう一度何かを始めたい」「学びたい」「発信したい」と感じる方は年々増えているといいます。
ある調査によると、60代の約7割が「まだ自分は現役だ」と感じているとのことで、「これから新しいことに挑戦したい」と答えた人も60%を超えたといいます。
この“挑戦意欲”こそが、アクティブシニアの最大の特徴です。
他にもそのニュースで、
・ 65歳で英会話を学び、
世界中の人とオンラインで交流する人
・ 70代で写真を学び、
地元の風景をSNSで発信している人
・ 定年後に仲間と
小さなカフェを開いた元会社員
──そんな「人生後半のデビュー組」が紹介されていました。
彼らは単に趣味を楽しむだけではなく、「社会とつながり続けたい」「誰かの役に立ちたい」という思いで行動しているのです。

“アクティブシニア”とは何か、その変化と意味
“アクティブシニア”とは、年齢に関係なく前向きに生きる60代・70代を指します。
健康で、好奇心旺盛で、社会との関わりを大切にする──そんな人たちです。
総務省によると、日本の65歳以上の人口は約3,600万人(2024年時点)。
このうち、身体的・精神的に活動的な層が「アクティブシニア」と呼ばれます。
かつての“高齢者”のイメージとは、まったく違う存在です。
特に注目すべきは「学び」と「デジタル」の広がり。
・ オンライン講座の受講者のうち、
60代以上が3割を占める
・ スマートフォンの所有率は
70代で9割に到達
・ LINEやYouTube、Facebookの利用率は
65歳以上で7割近く
つまり、今のシニア世代はデジタルを“使いこなす世代”になりつつあるのです。
そしてもう一つの特徴が「体験にお金を使う」傾向です。
リクルートの調査では、60代女性の65%が「モノより思い出にお金を使いたい」と回答しています。
「若い頃に行けなかった場所に行く」「誰かと感動を共有したい」──
そんな気持ちが、旅行・趣味・学びへの消費を後押ししています。
たとえば、旅行業界では“シニア限定ツアー”の参加者が年々増加。
中でも人気なのは「少人数」「美食」「文化体験」を組み合わせた旅です。
体験の質を重視する姿勢は、もはや若者以上かもしれません。

“私たちが経済を動かす”時代がやってきた
アクティブシニアの活発な活動は、経済にも大きな影響を与えています。
経済産業省の推計によると、シニア市場の規模はすでに100兆円を突破し、今後も拡大が続く見込みです。
この数字を支えているのは、「自分のための投資」という新しい考え方です。
たとえば、
・ 健康寿命を延ばすための
ジム・ウォーキング用品
・ 趣味を楽しむためのカメラや楽器
・ 旅行・学び・ボランティアなどの
体験型サービス
「老後資金を守る」から「人生を楽しむために使う」へ──
その価値観の転換こそが、日本経済に新しい風を吹き込んでいます。
また、企業もこの流れを見逃していません。
たとえば:
■JTB:同世代同士でつながる「旅クラブ」を展開。
■富士通:スマホを“挑戦を支える道具”として位置づけ。
■イオンは:60代以降を対象にした「アクティブライフプログラム」を実施。
こうした動きは、「シニア=守りの世代」という固定観念を打ち破り、むしろ“成長市場の中心”に位置づけられていることを示しています。
そして何より注目すべきは、「誰かの役に立ちたい」という想いが経済を回していることです。
シニアのボランティア活動、地域コミュニティ、NPOへの参加などは、金銭的価値以上の社会的エネルギーを生み出しています。
これからの10年、どう生きればより輝けるか?
これから10年、日本はさらに高齢化が進みます。
しかし、それは「社会が衰える」という意味ではありません。
むしろ、“生涯現役社会”への進化のチャンスです。
60歳を過ぎても、人生はまだ40年あります。
健康で、学び続け、仲間と関わり、社会に貢献することが、
心の充実にも経済にもつながる時代になりました。
特に注目されているのが「リスキリング(再学習)」や「シニア起業」で、経済産業省のデータでは、60歳以上の起業者がこの10年で2倍に増加したという報告もあり、「自分の経験を活かした小さなビジネス」を始める人が増えています。
ただし、健康・介護・資産の不安、そして地域格差などのリスクもあり、これらの課題を乗り越えるには、「つながり」が不可欠です。
孤立せず、仲間と学び合い、支え合うことがこれからの生き方の鍵です。
アクティブシニアとは、ただ元気なだけの人ではなく、「自分の生き方を、自分で選び続ける人」なのであり、ニュースで見た「70代のYouTuber」は、まさにこの時代の象徴であるといえます。
かつての“老後”という言葉が持っていたイメージ──
「働かない」「守るだけ」「静かな余生」──は、もう過去のものとなりつつあるようです。
これからは、“生きることそのものが活動”の時代であるといえます。
一人ひとりが、自分の好奇心と経験を活かして、社会と関わり続けることで、新しい経済と文化をつくっていけるのではないでしょうか?

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