「一度入所したからといって、絶対入っていられるわけではない」介護施設からの‟強制退所”事例

番号 70

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パワハラ、セクハラなんかは普通に退所勧告に

先日、介護施設から強制退去をさせられた事例集という記事を見る機会がありました。

以前、私の父も‟江戸っ子だから“と一番理解されずらいパワーワードを持ち出し、当時の介護職員に暴言や文句を言い続けた結果、出禁・担当拒否・強制退所などなど・・あらゆる拒否を受け続けた苦いあの頃に一気にフラッシュバックさせてくれた記事でした。

昨今、条件の良い人気の介護施設では入所待ちもあり、トラブルが目立つ利用者などは早々に退所を言われるケースも見受けられ、公共施設を利用する利用者側のマナーやモラルがますます問われています。

介護家族としても散々検索して見つけ、施設側とも綿密に打合せしたはずの施設を途中で退所させられた場合、またやり直さなければならない徒労感は計り知れないものと推測します。

退所の事例としては以下のようなものが紹介されていました。

【事例1:経済的理由による退去 - 82歳女性(Aさん)の事例】
Aさんは、年金収入が減少し、介護費用の支払いが困難となった。
当初月額20万円の介護費用を支払っていたが、年金収入の減少により、徐々に滞納が続いた。
施設側は6か月間の未払いを理由に、契約解除と退去を通告した。
Aさんには息子がいるものの、経済的支援は限定的で今後の確約も取れなかっため、最終的にAさんは低価格の介護施設への転居を余儀なくされ、生活環境が大幅に悪化した。

【事例2:医療ニーズの不一致 - 88歳男性Bさんの事例】
Bさんは、重度の認知症と身体障害を抱えていた。当初入居していた介護施設は、Bさんの24時間集中的なケアと医療対応が困難と判断し、より専門的な医療施設への転院を求めた。
家族は猛反対したものの、施設は医学的判断を根拠に退去を強行。結果として、Bさんは複数の施設を転々とし、精神的・身体的負担が増大した。

【事例3:施設運営上の理由 - 75歳女性Cさんの事例】
Cさんが入居していた介護施設が経営統合により閉鎖されることになった。
施設側は入居者に対し、3か月以内に他の施設への移動を求めた。Cさんは長年築いた人間関係や環境から離れることに大きな精神的ストレスを感じた。結果として、彼女は慣れない新しい環境での生活を強いられた。

【事例4:契約違反 - 79歳男性Dさんの事例】
Dさんは、認知症の進行により、施設内で度重なる暴力的行動を起こした。
施設側は入居者や職員の安全を理由に、Dさんの退去を決定。家族は法的対抗手段を模索したが、最終的には他の専門施設への転院を受け入れざるを得なかった。

法制度と社会システムは、高齢者の権利と施設の運営ニーズのバランスを、より人道的かつ柔軟な方法で調整する必要があるといえ、そういった点からもこれらの事例は、高齢者福祉における根本的な改革の必要性を強く考えさせられる内容であるといえます。

統計データによる強制退去の現状

日本の介護施設における強制退去の統計は、高齢者福祉における深刻な社会課題を浮き彫りにしています。

厚生労働省の最新調査によると、年間約500〜700件の高齢者が強制的に退去させられていると報告されており、この数字は過去5年間で徐々に増加傾向にあるといいます。

退去理由の詳細な内訳は以下の通りです:

① 経済的理由:35%(約245件)
・介護費用の長期未払い
・年金収入の減少
・家族の経済的支援の限界

② 医療ニーズの不一致:25%(約175件)
・施設の医療対応能力を超える状態
・重度の認知症や身体障害
・特殊な医療ケアの必要性

③ 施設の運営上の理由:20%(約140件)
・施設の統廃合
・経営戦略の変更
・施設の改築や再編

④ 契約違反:15%(約105件)
・施設内規則の重大な違反
・暴力的行動
・コミュニケーション上の深刻な問題

⑤ その他:5%(約35件)

地域別の分析では、都市部と地方部で顕著な差異が見られます:
 ・東京都:年間 約120件
 ・大阪府:約90件
 ・地方都市:平均して50〜60件

経年変化を見ると、強制退去件数は以下のように推移:
 ・2018年:約450件
 ・2019年:約550件
 ・2020年:約600件
 ・2021年:約650件
 ・2022年:約700件

この統計は、日本の高齢者福祉システムの構造的な問題を指摘しているといえ、高齢者の脆弱な社会的立場と、介護施設の経済的・運営的課題を如実に示しているといえます。

"権利"の主張以前に忘れてはいけない"責任"

介護施設における利害関係者の権利のバランスは、極めて複雑かつ繊細な課題であり、各関係者の権利と利害が交差した時、当然ながら対立がおきやすくなります。

真の解決策は、利害関係者の権利だけを主張するのではなく、相互理解を追求することにあります。

具体的な利害関係者とその権利は以下のように整理できます:

① 要介護者の権利
・尊厳ある生活
・質の高いケア
・自己決定権
・プライバシーの保護

② 介護家族の権利
・情報へのアクセス
・ケア参画の機会
・要介護者の最善の利益の追求
・経済的負担への配慮

③ 介護スタッフの権利
・安全な労働環境
・専門性の尊重
・適切な労働条件
・感情的サポート

④ 施設管理者の権利
・施設運営の自律性
・経済的持続可能性
・リスク管理
・サービス品質の維持

また、相互理解以前に、お互いが果たすべきそもそもの"責任"が存在し、責任を果たさずして権利を考えることはありえません。

利用者とその家族が忘れてはならない"責任"は例えば以下のようなものが挙げられます。

・施設のルールとポリシーを尊重する責任
・金銭的な支払い義務の履行
・スタッフとの建設的な対話
・不正や虐待行為などに対する監視と防止

父のように「江戸っ子だから」といった所で、周りは「だから何?」ですし、家族も「だから許して欲しい」と言った所で、周囲はせいぜい「そういう性格の人なんだ」と見てくれる程度で、起こしたトラブルを納得できることなどできるはずもないですし、施設からしたらただの"害"でしかないのです。

これだけ高齢化が進んだ昨今では、パワハラやセクハラを何度言っても直らない利用者を無理に引き留めておくより、施設の利用規約を遵守し、職員や他の利用者とも円滑にできる利用者に代わりに入所して頂く方が、介護施設の運営と存続を考える上では当然の判断といえます。

介護施設の統廃合による退所のような利用者側がどうしようもない場合は別として、利用者側の問題である場合は、どうやったら周囲に守ってもらえるかを考え、親の特性を一番理解している介護家族が常識的なモラルを持って責任を果たし、周囲と折り合いをつけていくことこそが、結果的に家族自身の負担を減らせる近道になるのではないでしょうか?

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