"認知症可"の介護施設選びのポイントとは?
番号 68

「認知症受入れ不可」の介護施設も
先日、サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)で認知症の入居者を虐待したとして、暴行罪に問われた57歳の元職員男性の判決公判が行われ、懲役6カ月執行猶予3年(求刑懲役6カ月)が言い渡されたというニュースを見ました。
この男性職員は介護キャリア約25年の大ベテランであり、主に週3回夕方から翌朝までの16時間半の夜勤をこなし、うち12時間は1人勤務だったといいます。
被害にあった男性は事件の半月前に入所したばかりであり、事件の資料によると入居約1週間後から夜中にトイレに行く回数が24回と異常に増えていき、その度にこの男性職員が呼び出される為、次第に腹立たしくなったといいます。
また、男性職員はこの増え続ける異常なトイレ対応を上司に相談した所、「赤ちゃんが寝るときにグズっているのと同じ」と言って全く相手にされなかったといいます。
判決で裁判官は「暴力を振るってストレスを解消したことは許されず、動機に酌量の余地は乏しい」とした一方で「施設はかなりの人手不足で上司に労働条件の改善を訴えたが取り上げてもらえなかった」とも言及し、「手のかかる被害者が入所したことで、夜勤の負担が増大したことが背景にある」と指摘しました。
25年ものベテラン介護士ならば過去にも認知症の高齢者を担当した事はあったと思いますし、認知症受入れ可のご施設では当然、被害男性のような方が入所してくることを承諾して勤務先に選んだはずです。
暴力行為にまで及ばせた背景はよく分かりませんが、ベテランのいる十分な介護をお願いできると思って用意した介護環境がそうではなかったという事例に、被害者はもとより家族も大変ショックを受けたであろうと推察するニュースでした。
認知症のタイプ別に見る‟行動特性”
自立性の低下が進み、人への依存度が高くなる為、在宅介護を断念するきっかけ上位になる認知症ですが、いくつかのタイプがあり、それぞれ異なる症状を示します。
各タイプによって症状の現れ方や進行速度が異なるため、早期の診断とケアプランの立案が重要です。
1. アルツハイマー型認知症:
- 記憶障害(最近の出来事を忘れる)
- 言語能力の低下(会話が難しくなる、何度も同じことを言う)
- 判断力や問題解決能力の低下
- 時間や場所の混乱
2. 血管性認知症:
- 突然の認知機能の低下(脳卒中などによる)
- 注意力や集中力の低下
- 感情の変化(抑うつや不安)
- 歩行や運動の問題
3. レビー小体型認知症:
- 幻視(見えないものが見える)
- 筋肉のこわばりや動きの遅さ
- 注意力の変動
- パーキンソン症状(震えやバランスの問題)
4. 前頭側頭型認知症:
- 性格の変化(衝動的や無関心になる)
- 社会的なルールやマナーの無視
- 言語の変化(言葉が出にくくなる、または無意味な言葉を使う)
- 情動の変化(感情の平坦化)
今後の施設選び
よくアンガーマネジメントの本などでは「相手の立場に置き換わって考える」や「カッとなった時に深呼吸を複数回する」、「一定期間距離を置く」といったような方法を勧められますが、元気だった親が人が変わったようにワケの分からないことを繰返されたり、暴言を吐かれたりされ続けたりすれば、気持ちを即座に整えることなどは、もはや‟神業“といえます。
身内ではこれ以上は面倒見切れない・・とプロにお願いしようと介護施設を頼っても、先述のニュースのような25年ものベテラン介護士ですら犯罪を起こしてしまう現状がある以上、自分の家族は自分で守らざるをえません。
とはいえ個人の力で介護施設の労働環境を変えられるような力があるワケでもなく、かといって特別なお金を払って個人で介護士を雇い、自分だけの‟特別看護チーム“を作れるワケでもなく、大部屋で集団生活をする介護施設で、いかに認知症だからといって「自分の親だけは特別扱いで看て欲しい」と願ってもなかなか厳しいのが現状です。
認知症という疾患に対する介護施設を選ぶには漠然とWebで検索する基本情報だけでなく、特殊事情を鑑みた‟こだわった視点“を持つことが重要だと考えます。
ポイント① : 個別ケアプランに合致できるかどうか?
認知症ケアでは単に症状を管理するだけでなく、独自の人生物語を徹底的に理解する‟パーソン・センタード・ケア“の深化が重要な専門的視点になるといわれています。
具体的には以下のような情報を集め、環境作りをしていくことが重要であると考えます。
・詳細な生活歴の調査と記録
・個人の趣味や興味の徹底的な把握
・家族や友人からの情報収集
・入所者の価値観や信念の深い理解
・個別化されたケアプランの継続的な更新
ポイント② : 認知症の"専門家"がいるかどうか?
認知症の専門家として挙げられる主な資格所有は以下があります。
・介護福祉士(認知症介護の専門研修修了者)
・社会福祉士
・認知症ケア専門士
・看護師(認知症看護認定看護師)
これらの資格は、単なる形式的な称号ではなく、高度な専門的知識と実践的なスキルを保証するものです。
特に認知症ケア専門士は、認知症患者の心理的・身体的ニーズを深く理解し、認知症に特化した個別ケア戦略を立案できる専門家として高く評価されています。
経験年数も重要な評価指標となります。認知症介護には、机上の知識だけでなく、長年の実践から培われた洞察力と柔軟な対応力が不可欠だからです。
さらに、継続的な教育と最新の認知症ケア技術の習得も重要です
最先端の認知症研究や非薬物療法、コミュニケーション技術などに関する定期的な研修の実施は、介護従事者のみならず介護家族もケアの質を持続的に向上させる鍵となります
特に認知症高齢者とのコミュニケーションは、極めて繊細で専門的なスキルを要します。
単なる言語的コミュニケーションを超えた、多層的なアプローチが求められます:
・非言語的シグナルの精密な読み取り
・感情的共鳴に基づく対話
・ゆっくりで明確な話し方
・肯定的で受容的な態度
・視線、表情、身体言語の活用
ポイント③ : IT技術の取り入れ具合
最新の認知症ケアでは、先端技術を人間的なケアと融合させる革新的なアプローチが登場しています:
・AIによる行動パターン分析
・バイタルデータのリアルタイム監視
・個別化された認知トレーニングアプリ
・バーチャルリアリティを用いた回想法
さらに、健康状態、治療方針、今後の見通しについて透明性の高いコミュニケーションをいかに緊密で効率的に行う事ができるようになるか?も重要な要素になります。
最新の医療技術とデジタルヘルスケアツールの活用も、医療連携体制の重要な側面であり、電子カルテシステム、遠隔医療相談、見守りシステム、AIによる健康予測など、先進的な技術を活用することで、より精密で効果的な医療ケアが可能となります。
いずれにせよ、認知症で判断能力が乏しくなってしまった場合、介護家族が代わりにこれらのポイントをおさえて施設選びや環境作りをすることが、親の今後のコンディションに大きく影響を及ぼす極めて重要なアクションであるといえるのではないでしょうか?