「久しぶりに息子と話しているようで楽しかった」と高齢者に言わせ続ける“訪問販売詐欺”とは

番号 63

# お金

# 制度

# 大切な家族へ

NOと言えない日本人は弱い⁈古い詐欺ノウハウの歴史に裏付けられた『訪問販売詐欺』最新とは

先日、訪問勧誘で必要のない住宅屋根修理をもちかけ代金をだまし取ろうとしたとして、埼玉県のリフォーム業者の代表と従業員、男女計10人が逮捕されたというニュースがありました。
この業者は関東6都県で同様の勧誘を行い、2023年からたった8か月間で、少なくとも700件(計7億9,400万円)を契約していたとみられています。

一戸建て住宅を訪問し、女性=当時(77)=に対して別の会社名を名乗り「近くで工事をしており、通りかかったら屋根の一部が壊れている」「工事が必要だ」などとうその話をして、翌日再度訪問し、修理の契約を結ばせ、代金約291万円をだまし取ろうとしたそうですが、女性は契約金を支払う前に「クーリングオフ」をし、難を逃れたといいます。

また、勧誘は最初に住宅を訪れて勧誘する「アポインター」と、その後に契約を結ばせる「クローザー」の2人組で行っていたといい、被害女性の住宅には24歳の男がアポインター役、そしてクローザー約である26歳の男が「ひさしの下が腐っている」「早く直さないと雨漏りする」などと話して契約を迫ったそうです。

このニュースの中で特に印象的だったのは、組織化・手順化された手法による圧倒的な“スピード感”で、2人1組で即日か翌日でクロージングをかけ、「考えたり・相談させたりするヒマを与えない」という点と、被害女性が誰かに相談したのか、それとも元々知識があったのかは分かりませんが、「クーリングオフ」の行動ができた点がポイントだったのではないかと思います。

昨今、電話やメールなどで行われる特殊詐欺は手口も広く知られたことと、ITリテラシーが高くなってきた高齢者も増えてきた事も重なり、対面で家まで知られている恐怖感からも断りづらく、かつ特別値引きと話し、本来なら数十万円する工事も、今自宅にある数万円の現金内で請負うとし、簡単な補修を行って引き上げていくという『足がつきづらい』スピード感で、短期間で複数の家を回れる”訪問販売“が激増してといいます。

訪問販売被害の"巧妙さ”

警察庁の2024年の生活経済事件に関する統計によると、全国の警察に寄せられた特定商取引関連の被害相談が前年比で56%増の1万7,703件と過去最多で、うち9,619件は訪問販売がらみで、特に65歳以上からの相談が最多の48.7%を占め、悪質リフォームの被害が広がっているといいます。

これらの詐欺的な販売手法は、高齢者の脆弱性を巧みに利用し、親切を装った言葉や複雑な勧誘戦術によって被害者を巧みに誘導します。
多くの場合、高齢者は孤独や情報不足・判断力の低下などの理由により、容易に騙されてしまい、金銭的損失だけでなく、自尊心の喪失や精神的トラウマも深刻な問題となっています。

昨今、訪問販売業者の手口は、高齢者の心理的脆弱性を徹底的に利用する、驚くほど洗練された詐欺的戦略であり、突出した心理的操作は、高齢者の認知的・感情的脆弱性を巧みに利用する精緻な戦略といえます。
彼らは人間の心理を深く理解し、高齢者の防御機制を徐々に崩壊させる洗練された技術を駆使しています。

心理的操作の根本的なメカニズムは、高齢者の感情的ニーズと認知的限界を狙うとマニュアル化されています。
孤独感、自尊心の脆弱性、情報処理能力の低下などを戦略的に利用し、高齢者の心理的空白を埋めるかのように接近し、信頼関係を擬似的に構築します。

具体的な心理的手法には、以下のようなものがあるといわれています。

1. 共感と親密さの演出
販売員は、まるで親しい家族や友人であるかのような態度で接近します。
長時間にわたる丁寧な会話、個人的な質問、共感的な態度を通じて、高齢者の警戒心を巧みに解除するのです。この「擬似的な親密さ」により、高齢者は販売員を信頼しやすくなります。

2. 不安と脅威の喚起
「今すぐ行動しないと危険」という偽りの緊急性を創出します。
健康、安全、経済的リスクなどへの潜在的な不安を刺激し、商品やサービスを「唯一の解決策」として提示するのです。高齢者の不安な感情を巧みに操作し、冷静な判断を妨害します。

3. 自尊心への働きかけ
「あなたは特別だ」「賢明な選択ができる」といった言葉で、高齢者の自尊心を刺激します。
特別扱いされていると感じさせることで、批判的思考を麻痺させ、感情的な同意を引き出すのです。

4. 情報の複雑化による混乱戦術
契約書類を意図的に複雑にし、高齢者が内容を理解することを困難にします。
専門用語や法律用語を駆使し、「理解できない」という無力感を植え付けます。結果として、多くの高齢者は恥ずかしさや混乱から、内容を確認せずに契約に応じてしまうのです。

5. 執拗な繰り返し勧誘
一度断られても、販売員は異なるアプローチで何度も勧誘を繰り返します。
電話、手紙、再訪問を通じて継続的に働きかけ、高齢者の心理的防御を徐々に弱めていきます。

これらの手法は、通常の営業マンとしてもかなり卓越したスキルといえ、正規の営業活動で十分に通用する、いわば秀逸な成果行動(コンピテンシー)であるといえ、犯罪に使われてしまうのは極めて残念な行為であるといえます。

"特殊詐欺”が登場しても、なぜ"訪問販売詐欺”は増え続けるのか?

特殊詐欺が登場する以前から悪質な訪問販売業者の存在は取り沙汰されてきました。
しかし、ここにきて特殊詐欺よりも訪問販売による詐欺の方が活発化してきているといいます。

インターネットの無機質な空間より、対面の方が高齢者の判断力の低下や不安や孤独感に訴えかけやすく、さらに強引でも相手の合意を取り付け、契約を結び、修理などの成果物を提供することで法的な部分もクリアにし、詐欺リスクを低減させるという被害者側が声を上げづらい状況を巧みに利用してきます。

かつて高齢者はデジタル技術に不慣れといわれ未だに敬遠する高齢者も多いですが、高齢者のスマートフォンの保有率も60代で9割を超え、高齢者のITリテラシーもかなり上昇してきています。

加えて、子供や友人に特殊詐欺メールを転送して瞬時に相談できたり、特殊詐欺事例の情報共有をタイムリーに入手したりすることができ、成功確率も以前ほどではなくなってきていることから、リスクの割に合わない、と減少傾向にあるようです。

そんな背景からも、特殊詐欺のように広範囲でリスクを負って多数を狙うよりも、狭い地域の限られた人に確実に成果を挙げられる訪問販売がより活発化したと考えられます。

しかしながら、高額な商品販売や契約に関する規制が不十分で、詐欺師は法的リスクを最小限に抑えながら活動できる環境にあり、現行の法律は、悪質な訪問販売業者を完全に排除できていません。
また、訪問販売に関しては、特定商取引法が包括的な規制枠組みを提供しています。

もし仮に契約をしてしまったとしても即振込や施工などを行うのではなく、前述のニュースで紹介した高齢女性のように、以下のような法的な情報をインプットしておき、冷静に対応できるようチェックするのが重要だと考えます。

●事前説明義務:
販売員は契約前に商品・サービスの詳細、価格、契約条件を明確に説明することが法律で義務付けられています。虚偽の説明や重要事項の隠蔽は、即座に契約取り消しの対象となります。

●クーリングオフ制度:
消費者は契約後8日以内であれば、理由を問わず無条件で契約を解除できます。高齢者を狙った不当な勧誘に対する重要な法的保護となっています。

●違反に対する厳罰:
悪質な販売行為を行った事業者に対しては、業務停止命令や罰金、場合によっては刑事罰も適用されます。高齢者や社会的弱者を狙った詐欺的販売に対しては、より厳しい罰則が設けられています。

詐欺被害よりも深刻な”二次被害“

何とか業者を摘発したり、お金を一部でも返してもらえたりしても、販売詐欺の被害は、単なる金銭的損失を遥かに超える深刻な心理的トラウマを抱えるという、"2次被害"を引き起こすことが指摘されています。

最も顕著な感情は、深い“裏切られ感”だといいます。
販売員が築いた擬似的な親密さや信頼関係が完全に崩壊することで、被害者は深い喪失感に苦しみ、長時間にわたって構築された「擬似的な友情」が、一瞬にして詐欺であったことを知らされるショックは、心に深い傷を残すのです。

また、“恥辱と恥ずかしさ”も、同時に被害者の心を深く傷つけます。
多くの高齢者は、自分が「だまされた」事実を家族や周囲に伝えることを恥じらい、孤独な苦悩を抱え込みます。「自分は賢明であるべきだった」「なぜ騙されたのか」という自己批判的な思考が、高齢者の心を蝕んでいきます。

さらに“自尊心の喪失”は、深刻な心理的影響をもたらします。
長年築いてきた自信や判断力への信頼が一瞬に崩壊し、被害者は自分の能力を疑い始めます。特に高齢者にとって、これは単なる金銭的損失以上の、アイデンティティへの攻撃なのです。

これらの事で家族との関係にも深刻な亀裂が生じることがあります。
被害の事実を知った家族からの失望や批判は、被害者にさらなる精神的苦痛を与えます。場合によっては、家族の保護や監督が強化されることで、高齢者は自立性や尊厳を失ったと感じるのです。

心理的トラウマは長期にわたって続くため、多くの被害者は、その後の日常生活において継続的な不安と恐怖に苦しめられてしまいます。
初めて担当するヘルパーさんや介護施設の職員など見知らぬ人との接触を恐れ、電話や訪問に対して極度の警戒心を抱くようになり、やがて引きこもりやコミュニケーションの損失などへと発展してしまうケースもあります。

私達家族が本当にケアしなければならないのは、悪質業者が近づけない環境を整備することや近づいたことが把握できる程の頻回なコミュニケーションを日頃から心がけることだといえそうです。

その他のコラム

もっと見る

TAGタグから探す