「子供に怒られたくない…」が被害を拡大させる高齢者を狙った“特殊詐欺”の実態
番号 43

令和5年 特殊詐欺の“認知”件数は19,038件、表面化しづらい特殊詐欺
先日、初期の認知症を患う一人暮らしの男性が「インターネット不動産販売」の担当者から150万円を騙し取られたニュースを見ました。
担当者は「3年ほど前にお世話になりました」といって自宅に上がり込んだあと、「マンションの1室を買ってくれれば家賃収入が得られる」などと不動産への投資を持ちかけてきたということです。
男性には担当者と会った記憶はなかったですが、何度も説得される中で子どもに資産を残してあげたいという思いもあったため契約してしまったといいます。
その後、男性の口座には家賃収入として月4,000円が振り込まれましたが、数回の振込で途絶え、担当者とも連絡が取れなくなり、後日ニュースで詐欺事件が報じられているのを見て初めて被害に遭ったことに気付いたということです。
その男性は
「子供たちに遺産を残してやりたいと思ったので契約しました。振込みが無くなった時、だまされた金額以上に息子に怒られたくないと相談はしませんでした。
不動産業者は怪しいと思っていましたが、何回も来て優しく楽しい話をしてくれるので、嬉しくてつい契約してしまいました」
と話していたそうです。
近年深刻化しているのが“認知症”高齢者を狙う特殊詐欺だと言います。
認知症高齢者は判断力や記憶力の低下から、詐欺の被害に遭いやすい立場にあり、被害の実態を見ると、ひとり暮らしで話し相手を欲している人恋しい高齢者へ近づき、巧妙に資産状況を聞き出し、判断力や記憶力の低下を利用され、騙された実感を抱かれづらく、さらに実際の振込みを数ヶ月だけでも行う事で感謝すらされるケースもあり、家族にも知らぬ間に被害にあっているという絶妙な手口でアプローチされています。
認知症高齢者を特定する"闇リスト"と"トークマニュアル"
先日摘発されたこの、インターネット不動産会社の関係先からはおよそ9万人分の名簿や電話マニュアルなどが押収されたそうです。
名簿には、80歳以上の高齢者およそ9万人の名前や住所、電話番号が書かれていて、名簿業者から1人あたりおよそ10円で大量に購入していたということで、このリストをもとに実行部隊が“アポ電”をかけ、認知機能の程度や資産状況などを聞き出していたとみられています。
“アポ電”をかける際のマニュアルには、電話でのやりとりの流れや聞き取るポイントが細かく書かれており、電話の冒頭
「お久しぶりです、覚えていますか?あの時、助けて頂いた◯◯です」
と知り合いを装い話し始め、
「あの時のお礼をさせてもらいたい」
と接触を試みると言います。
この架空の話の会話で
記憶力はあるか?
決断する能力はあるか?
など能力的なものの他に
信じこみやすいか?
口は硬いか?
情に流されやすいかどうか?
など、協調性や迎合性があるかといった、『だましやすいか?』を見極めるための非常に巧妙に作られたマニュアルであったようです。
また、電話で聞き取った1人1人の情報を『個票』に書き込んで管理しており、個票には年金・貯金額などの資産状況の他に、「一人暮らし」「ヘルパーやディサービスの利用状況」などの情報のほか、「よく話を聞いてくれる」「結婚、息子の話は嬉しそうに聞く」「『あなたが困っていたから今日は来た』と持ち込む」などという詳細な内容が書き込まれていたそうです。
軽度の認知症やMCIの人などは、自分の認知機能が低下していることを『できるだけ悟られないようにしたい』『隠したい』という思いがあるので、マニュアルに書かれているように『覚えていますか?』と言われると、記憶力が低下していると思われるのが嫌なので『覚えています』と答えてしまうことがあるようです。
"取りつくろい"が引き起こす、被害の拡大
母も認知症初期の頃、実家で一人暮らしをしていたあるタイミングでオレオレ詐欺の電話やリフォームの訪問販売がやたら多くなる時期がありました。
ある日、実家の固定電話が珍しく鳴り、母が出ると兄と名乗る人物が会社のお金を使い込んだとかで、振込を急いで欲しいと催促してきている様子。
兄は海外に赴任しているので、日本で使い込みしようもないと不審に思い、電話を代わってみると慌てて切られました。
母に聞いてみると数ヶ月前からずっと電話がきていて、「急いで振り込まないと・・」と思ったが暗証番号を忘れてしまったので振り込めなかったと言います。
皮肉にも認知症が功を奏し、振り込めずにいられたことが幸いしましたが、なぜ、早く相談してくれなかったのか?と聞くと、「暗証番号や銀行の手続きのやり方を忘れてしまった事を知られたくなかった。」と話していました。
被害に遭いながら泣き寝入りの状態になっている高齢者が多いことについて、認知機能が低下すると周囲に対して、『自分は問題ない』『大丈夫です』というアピールが非常に強くなるという特徴があります。
損をしてしまった、失敗してしまった、といったことを「子どもには弱みを見せたくないので話したくない」と考える方は、認知機能が怪しくなればなるほど多くなるという印象です。
そういったこともあって被害に遭っても周囲の人には言わない、特に子どもには言いたくないと考えてしまう事が多く、多くの犯罪が表面化しない要因となってしまっているようです。
特殊詐欺グループの驚くべき‟標的“の特定方法
前述した通り高齢者の闇リストの作成は組織的に、かつ巧妙に作られてきています。
特に単世帯で認知症を発症した老々介護を行うような高齢者のリストは相当な高値で取引されていると言われています。
特殊詐欺グループは高額な闇バイトを募り、平日の昼間に高齢者宅を訪問させ、数分の会話から認知症の程度を確認させたり、その地域のデイサービスの車を追跡し、送迎の光景から、どんな人が迎えに来ているのか?単身か同居家族が普段家にいるのか?など細かくリサーチさせ、そのリストの精度を高めていると言われています。
こういった、生活環境を直接見に行かれることも恐怖ですが、もっと恐いとされているのが、高齢者の個人情報への不正アクセスです。
アルバイトを雇うよりはるかに効率的で、かつリスク少なく、大量に精度高く収集できるため、特殊詐欺グループが特に注力しています。
① 介護施設などへの直接アプローチ
介護施設は、認知症高齢者の個人情報を多数保有しており、そこに不正にアクセスすれば、標的を特定しやすくなるというものです。
介護施設の警備体制や情報管理体制の脆弱さを突いて、直接的に情報を盗み出すこともあると言います。
例えば、自治体職員やIT企業のサービスマンと名乗り「設備環境の抜き打ちチェック」や「新しいITサービスのサポートに来た」などと伝え、施設の書類保管場所に不法に侵入したり、職員のパスワードを不正に入手したりするなど、技術的な手段を用いて、入居者の情報を直接的に窃取するような事例があります。
昨今では介護施設もIT化が進み、セキュリティの強化や専任者の設置など強化されてきたこともあり、職員を装った直接的な侵入は激減したものの、まだまだITに対して苦手意識の多い業界でもある為、専門用語を話すような人に言いくるめられ、すぐにPCやタブレットを見せてしまうような職員も少なく、介護現場における情報保護の一層の取り組みが不可欠であると言えます。
②AIビッグデータ解析技術の悪用
介護施設の直接的なアプローチが減少している一方、最新のAIやビッグデータ解析技術を悪用して、認知症高齢者の情報を収集し、標的を特定する手法が主流となってきているようです。
これらの技術を駆使することで、詐欺グループは大量のデータを分析し、詳細なプロファイルを作成し、狙い撃ちの対象を絞り込むことができるようになってきています。
まず、AIを活用した手法とし標的とされるのは、SNSやウェブサイトからの情報収集と分析です。
AIを用いて、膨大な量の投稿やウェブページを解析し、高齢者の個人情報、家族構成、生活パターンなどのデータを抽出し、さらに、その情報を組み合わせて、認知症の症状や社会的孤立などの脆弱性を容易に特定することが可能となります。
また、ビッグデータ解析の手法を用いれば、公的機関が保有する各種の個人情報データベースを悪用することもできてしまいます。
例えば、住民票情報、医療保険情報、介護保険情報などを統合的に分析すれば、認知症高齢者の所在地、家族構成、介護状況などの詳細なプロファイルを作成することができてしまいます。
これらの公的機関のデータと、SNSやウェブサイトの情報を総合的に分析すれば、認知症高齢者の生活実態をきめ細かく把握することができ、認知症の進行度合いや家族関係、経済状況など、詳細なプロファイルを作成し、狙い撃ちの対象を絞り込むことが可能になってしまうという仕組みです。
SNSは仲間やコミュニティと楽しむ最大のツールである一方、悪用しようとする輩が常に潜んでいることを十分に踏まえ、使用する必要がありそうです。