今や有名料理人も手掛ける “嚥下食”の魅力

番号 39

# 大切な家族へ

# 介護の準備

65歳以上の高齢者の約15%~30%と言われる“嚥下障害”

先日、ある地方のレストランで人気な料理人が作る“嚥下食”の特集を見る機会がありました。

嚥下食とは飲み込みやすいように工夫された食事のことで、加齢や病気で飲み込む力(嚥下)に障害があった時に提供される食事として以前から様々な工夫がされてきました。

そのシェフの方はご自身も若くして脳疾患にかかり、最初に病院で出された嚥下食の“まずさ”に驚愕し、ただでさえ病気で弱っている人に、楽しみの一つである食事でさらに苦痛を与える状況に料理人として何かできないか?思い立ち、退院後、麻痺が残る体と嚥下障害の懸命なリハビリを行い、数か月間でまたフライパンが振れるまで回復させたそうです。

元々、ご自身が経営されるレストランは地域の、特に高齢者の方が多く来られるレストランで以前から「食べやすくして欲しい」とリクエストをされることも多かったようですが、ご本人の経験もあり、「普通の料理の味や触感をそのままに‟嚥下食仕様“にしよう!」と復帰後すぐにスペシャル嚥下食の開発に取り組み、試行錯誤を重ね、究極のレシピを完成されました。

レストランは瞬く間に話題となり、近隣の高齢常連客だけでなく、県外からも身体障害者や子供連れの方など様々なお客さんが訪れ、さらに「そのスペシャル嚥下食を教えて欲しい」、と全国の料理人から問い合わせが殺到するという盛況ぶりとなったそうです。

患者数が3倍に跳ね上がる⁈『誤嚥性肺炎』

一般的に加齢によって舌やのどの筋肉が衰え、嚥下が低下していきますが、このシェフのような脳疾患や認知症、パーキンソン病、ASL(筋萎縮性側索硬化症)などの神経疾患では嚥下反射(食物が食道に正しく送られることを助ける生理的反応)を障害し、嚥下機能を低下させます。

脳疾患、認知症など広範な神経疾患の発症率は、65歳以上で20%にものぼり、そのうち脳卒中を患った患者の約30〜65%が嚥下障害を持つと言われ、嚥下障害により食物や液体などが誤って気道に入ってしまい肺炎を引き起こしてしまう『誤嚥性肺炎』の年間の死者数は4万人以上に達し、日本の死亡原因の第6位に位置するそうです。

さらに75歳以上の高齢者の肺炎患者の約70%が誤嚥性肺炎であることが厚生労働省のデータから示されており、2030年には約13万人に達するという予測もあります。
これらのデータからも親の年齢層にとって今後、嚥下食や介護食にお世話になる可能性が高いことが見て取れます。

おいしいものを“食べられる”ことは最高のモチベーション

食べることに障害が生じてくることによって、楽しみの一つでもある食事が損なわれることになれば、あらゆる意欲が失われやすく、老化も加速しがちです。
いかに初期の頃からモチベーションを保ちながらリハビリを行えるか?が今後の経過に大きく左右することになると思います。

食欲の秋、いつもの“家ごはん”も良いのですが、たまには有名料理人の『スペシャル嚥下食』でテンションを上げてみてはいかがでしょうか?

【各料理ジャンルの代表的な嚥下食】
■日本料理
卵豆腐: 滑らかな食感で、嚥下しやすい
茶碗蒸し: 具材を少なくし、柔らかく仕上げることで飲み込みやすくなる
根菜の煮物: 柔らかく煮たものが適しており、食べやすい

■フレンチ
クリームスープ: 滑らかでとろみがあり、飲み込みやすい
ポテトピューレ: クリーミーで、口の中でまとまりやすい
ムース: 軽やかで、口の中で溶けやすい

■イタリアン
リゾット: 柔らかく煮込まれた米料理で、滑らかな食感
パスタのピューレ: パスタを柔らかく煮て、ペースト状にすることで嚥下しやすくなる
ティラミス: 柔らかく、口の中で溶けるデザート

■中華料理
とろみのあるスープ: とろみをつけることで、飲み込みやすくなる
豆腐のあんかけ: とろみをつけたあんをかけることで、嚥下しやすくなる
蒸し餃子: 中身をペースト状にすることで、飲み込みやすくなる

『道場六三郎/100歳ごはん/やわらか仕上げ』(全8品)
『坂井宏行/100歳ごはん/フレンチえんげ食』(全12品)
https://nanokaya.com/

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