認知症レベル“重度”に突入、その先に待ち受けるものは・・?

番号 38

# 介護録

# 大切な家族へ

# 介護の準備

果てしない“無気力”との闘い

入院から母は環境も変わり、薬も変わるにつれ、食欲も減退し、動くこともままならず、会話をすることもなく、お見舞いに行っても、ただ車いすに座り決まった場所で、ぼーっとつまらなそうに外を眺めている日が続いていました。

自分の周りにあった楽しい出来事や昔話をしても、たまに表情を変え反応してくれたと思えば、また元の無表情に戻り、誰だか分からない人が頻繁に話しかけてくることを不思議そうに見つめているだけです。

母はかつて、こちらが会議中でもお構いなしで「ごめんね~、忙しいよね~」とか言いながら長電話をしてきたと思えば、1時間後に「そろそろ会議終わった?」とクロージング中の営業マンのごとく“鬼電”してきた『しゃべりたがりさん』の姿は、今はそこにはありませんでした。

認知症病棟では、介護施設のような決まったレクレーションをやったり、入所者同士談笑したり、頻繁にコミュニケーションを取ったりすることもなく、一日中大広間でしゃべる事なく無理に動かず、ある意味ストレスなく過ごせますが、今の母にとっては無気力をただ加速させていく空間でしかないようでした。

入院当初はもう少し会話ができたように思えますが、やはりこれだけフリーな環境下に置かれたら、当然何もする事もなく、たった1か月でもこれだけ猛スピードで進行してしまうのか、と会うたびに落ち込んで帰ったものでした。

家族は「早く介護施設に帰らせたい」でも施設の反応は・・

既に重度にさしかかった今、前のように激昂したり暴力をふるったりするようなリスクはかなり低いと病院からもお墨付き(?)が出た今、家族としては費用面も気になりますし、一日も早く元の特養に戻して欲しいと願い出ました。

同席した元の介護施設の職員も現状を踏まえて持ち帰り、検討して頂く事になりましたが、特養とはいえ認知症重度の人を迎え入れるには慎重な検討が必要そうで、歯切れの悪い回答でした。

特に再受入れに懸念されると説明されたポイントは以下のようなものでした。

自立生活の困難

サポートしながらかろうじて歩行ができるものの、ほとんどが車イスの上で生活を送っている現状を考えると今後、一日中寝たきり状態になってしまう可能性が高くなる事が考えられます。

以前は外に出てしまったり、歩き回って他の入所者の方とトラブルを起こしたり、それはそれでサポートに神経を使って頂いていましたが、フル看護のような状態になってしまうと、そこまでのつきっきりのケアの時間が割けないという問題があるようでした。

特に母の入所している介護施設は“入所待ち”が数十人単位でいるそうなので、常時介護職員が看れるギリギリの人数の"満員状態"の為、ケアに関しては慎重にならざるを得ないのです。

家族としては、介護レベルが上がってきた今こそつい、「特別扱いして欲しい」と願いがちですが、「看てもらっているのは自分の家族だけじゃない」と再認識する必要がありそうです。

食事の管理

担当医によると、食事のタイミングを忘れるだけでなく、ひどくなると食べ物を食べ物と認識しなくなるような事もあり、「変なものを口に入れたくない」と無意識に拒否反応が出てしまい、食欲がどんどん低下し、最悪、栄養失調につながるケースもあるそうです。

また、食べ物を飲み込む“嚥下(えんげ)機能”が低下することがあり、食べ物や飲み物を飲み込むのが難しくなり、誤嚥のリスクを高め、つまらせたり肺炎を引き起こしたり、生死にかかわる重篤な状態にもなりかねないそうです。

食べ物自体についても細かくしたり、液状にしたりと神経を使い、さらに食事サポートの時間も通常よりも長くかかるなど、介護施設にとってはこちらも懸念材料となりうる項目です。

安全管理

日本における認知症による死亡者数は、2022年のデータで約15,514人であり、死亡率は26.3%で、認知症患者の死亡原因として挙げられるもので、先の栄養失調と感染症(特に肺炎)が多く、他には心疾患などが見られるそうです。

病院同様、介護施設においてもいつの時代も感染対策は永遠の課題であり、免疫の落ちた高齢者にとっては最もケアが必要な事項の一つであることはコロナで十分知らしめられている所です。

さらに足腰が弱ってくると、こちらも高齢者の事故のトップ10入りする“転倒”リスクも加わり、特に寝たきりに近い状態の高齢者には特別な安全管理が必要であります。

今回、介護施設側からの申し出で入院する運びとなりましたが、逆に特別なケアが必要となってしまうのであれば介護施設側としても、いっそ在宅介護で家族で看て欲しいと考えているかもしれません。

介護が必要な高齢者の70%以上が在宅を希望しているというデータがありますが、必ずしも本人の希望に沿った形で介護できるかどうかはサポートする家族や周りの介護施設も含めた第三者の理解や環境を思った以上に整えておく必要があるのかもしれません。

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