においと食と認知症の意外な関係
番号 35
においが感じなくなったら認知症の兆候⁈
母の入院後、約半月が経過した先日、担当医と介護職員との3者面談を実施しました。
血液などの検査データは全く正常でフィジカル面は問題ないものの、やはり一番問題視されたのは『無気力』メンタル問題でした。
とりわけ、食事に関する“無気力さ”は急を要する対応として指摘されました。
以前から食が細く、こだわりの少なかった母は認知症初期の頃、一人暮らしをしていたこともあり、毎日一口サイズのクリームパンとコロッケしか食べないという”超“偏食生活を送っていました。
購入した事を忘れて新品を毎日買っては、家族に悟られないよう冷蔵庫に押し込み、久々帰省した家族が『賞味期限切れ』の食料を冷蔵庫から大量に発見し、現行犯逮捕されるという"マルサ状態"が常態化していました。
よく認知症を疑った事例として、食事した事を忘れ、何度もリクエストしてしまうような場面が紹介されますが、母の場合は逆で、かなり前から"冷蔵庫ストック"を繰り返すも、他に何か食べた形跡もなく、心配になってこちらから「今日、ご飯食べた?」と聞いても必ず「食べた」と答え、母が好きそうな食べ物を差し入れても一切手を付けないという、よく分からないストイックさを見せていました。
今回の入院や介護施設でも3食をサポートして頂いているので、『食べた、食べない』は確認できるものの、圧倒的に"食べない"の方が多く、看護師さんも量を調整したり、食事時間を延ばしたりと対応に苦慮されているとの事でした。
担当医の先生からは母のようなアルツハイマー型認知症やレビー小体型認知症では、脳の嗅覚野の神経細胞が早期に障害されるため、早期から著名な嗅覚障害が現れることが知られているらしく、それにより食事がおいしくなくなり、ただでさえ細い食欲がますます減退し、免疫機能にも影響が出て来てしまっているような深刻な状態に陥ってしまったようでした。
認知症の早期発見のサインの一つとなる『嗅覚・味覚障害』
担当医からも指摘されたように高齢者の嗅覚・味覚障害は、認知症のリスク因子の一つとされているようです。
そのため、味覚の変化に注目し、適切なケアを行うことが、認知症の予防や早期発見につながります。
日頃から、香りの強い食材を使ったり、舌のマッサージを行ったりするなど、味覚を刺激する活動を心がけることで、認知機能の維持にも役立つと考えられています。
高齢者の嗅覚・味覚障害への理解と適切なケアは、健康維持と認知症予防の観点から重要であり、これらの障害が引き起こすトラブルをまとめてみました。
安全機能の喪失
嗅覚は、体に備わっている命を守るための安全機能の1つでもあります。
嗅覚障害があると、異常なにおいに気づかないので、ガス漏れや火事の煙に気づきにくくなる、腐敗した食品を判別しにくくなるなど、安全機能が低下するリスクがあります。
ガス漏れや火災の検知器を設置する、安全性の高い暖房器具やオール電化を検討する、食品は開封日を記載して廃棄日を決めておく、レシピ通りに料理する、といった対策によって、安全を確保する必要があります。
食事の楽しみが減少する
母のように元々、食にこだわりのない人はもとより、食を楽しみにしている人も嗅覚障害があると、食べ物の風味がわからなくなって、食事をおいしく感じにくくなります。
このため、食事に対する楽しみが減る、食欲低下によって食事量が減る、辛(から)いものや味が濃いものを好む、新鮮な食品の摂取が減る、料理に多くの調味料を使うなど、栄養や調理の面で問題が起きる可能性があります。
嗅覚障害が、栄養失調や体重減少を引き起こし、死亡率を増加させると指摘している論文もあります。
におい以外でも食事を楽しめるように、味覚、彩り、食感などを工夫することが大事です。
衛生管理の問題
口臭や体臭がわからなくなる、ペットの管理やおむつ交換が行き届かなくなる、洗剤や香水の使用量がわからなくなるなど、衛生関連の問題が起きやすくなります。
においによる管理が難しくなるため、厳格に衛生を習慣づける、身近な人ににおいの評価をしてもらう、といったことが大事です。
ご両親が、あれだけ大好きだった食事を急にこだわらなくなったり、急ににおいに鈍感になったりしてきたら一度、認知症チェックをしてみてはいかがでしょうか?