二度と一緒に外食へ行けなくなってしまった父へ

番号 17

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店舗選びにもう一つの視点 “バリアフリー認証”

転倒事故でリハビリをしなくなってしまった、父の唯一の楽しみだった“通販買い漁り”ですが、何よりも購入していたもの、それは“食べ物”でした。

旬の魚を粕漬にした『季節の魚パックセット』や明太子や塩辛などがぎっしり詰まった『ごはんのお供セット』、ブランド牛・豚・鳥が完備された『全種類豪華肉コース』などなど、あらゆる食材の様々なバリエーションの食べ物を購入しては両親で一つ残らず完食し、さらに残業真っ只中で、この上なく空腹な私にわざわざを電話かけてきては、

「あれは格別の味だった・・」

と、散々自慢した挙句

「結構安いから買ってみるといいよ」

と、ご丁寧に番組名と電話番号だけを教えて切るという、完全に嫌がらせとしか思えないやり取りを繰り広げ、残業のイラつきをさらに高めてくれていました。

元々、父はオリジナルレシピを数十種類も考案するほど料理好きで、それ以上に美味しいレストランがあると聞けば、お金を借りてでも食べに行くという程の外食好きでした。

そんな“グルメファーザー”はある日、兄のレストランウェディングに招待されました。

40年以上続く、都内でも屈指の高級フレンチレストランで、父が若い頃から憧れていたレストランらしく、上京する際、

「自分が稼いだお金で、ここで食べることができたら成功の証」

とまで言わしめるほどのレストランだったそうです。

今回が成功の証かどうかはさておき、憧れ続けたレストランへのパスポートに俄然テンション爆上がりの父。

かくして、来るべき3か月後の決戦(?)に備え、ストイックに追い込むリハビリメニューをこなし、新郎新婦以上に万全のコンディションを整える日々を送っていました。

綿密に行った“事前調査”

とはいえ、半身不随になってから初めての外出という事もあり、私たち家族は事前に何を確認すべきか、なかなか要領を得ません。

とりあえず思いついたことと言えば、送迎の介護タクシーの手配、レストランのバリアフリー対応、嚥下困難対応の食事にできるかどうか、あたりでした。

結婚式自体は2時間近くあるので、特にレストランの動線を綿密に確認しようと下見にも行きました。
あまりに高級店だったため、食事はしません(できません)でしたが、古い建物ではありながらも、さすがの名店と思わせるほど、出入口の段差はスロープに改築され、トイレや廊下にも手すりを増設したりと、あらゆる箇所に施された“完全バリアフリー対応済み”のお店で、ひとまず安心しました。

次々に襲いかかる"盲点"達

ウエディング当日を迎え、父のコンディションもばっちり、意気揚々と介護タクシーから降りたちレストランへ向かいました。

到着すると多くのゲストが既に到着しており、車いすで人をかき分け何とか着席しました。
式は順調に進み、いよいよ料理登場…という前に事件はおきました。

両家の家族集合写真を広い庭で撮る事になり一同、外へ出ました。

格式高そうな豪華な庭は芝の向こうに砂利がキレイに敷き詰められ、段差なく外には出られるものの、車椅子の車輪が挟まってしまい、10m先の撮影ポジションまで行けません。

車いすごと持ち上げたり、迂回ルートを試したりしましたが、どれもうまくいきません。

撮影時刻が押し始めたので、一度は“父無し案”も浮上しましたが、新郎の父親がせっかくいるのに…という事になり、なくなく歩行で撮影位置につく事となってしまいました。

"ストイックリハビリ"をしていたとはいえ、半身不随間もない父が素早く動けるはずもなく撮影時間は大幅に遅延してしまいました。

30分近く押しとなりながらも気を取り直し、いよいよ食事の時間になった直後、再びトラブルが勃発します。

目の前に憧れの料理が並び始め、乾杯の直後、長く庭であれこれやっていたせいか、

「トイレに行きたい」

と言い出しました。

さすがにトイレは下見チェック済みであったので、想定の範囲内と安心しながらも超特急で車椅子を向かわせると、今度は途中のコーナー部分が直角すぎて曲がれません。

スロープ仕様になっている事に安心し、廊下の幅までは完全に盲点となってしまいました。

このあと数か所あるコーナー全てを一度立ち上がっては車いすを一旦たたみ、また乗り直し、と何度も繰り返し結局、席に戻るまで40分近くを有する事態となってしまったのです。

慣れない外食と度重なるトラブルに疲れ果てた父は式の終盤で席に戻るも、出された料理をほとんど食べることなく、タイムアップを迎え、あれほど楽しみにしていた料理のほとんどを、冷めて本来の味を失った状態で残り全て持ち帰るという最悪の結末を迎えてしまいました。

案の定、帰りの車の中の父は、行きのハイテンションなど見る影もなく、

「もう、どこのレストランにも行きたくない・・」

と、あれだけ好きだった外食という楽しみに、大きな“バリア”を作ってしまった事に、下見に行った自分の確認の甘さと予備知識の無さに罪悪感しか覚えませんでした。

障害者の方のチェックに裏付けられた“認証”

あれから10年以上経ち、すっかりバリアフリーという言葉自体も一般的になってきた昨今、バリアフリーの認証事業やバリアフリー情報サイト、バリアフリー基金を運営する会社の代表の方の動画を目にする機会がありました。

その方は一般社団法人Ayumiの代表理事、山口広登さんという方で、山口さんも障害を抱える従兄弟と旅館に行った際に、バリアフリー対応について苦慮した経験から、なんと85項目にも上る調査を通じて、レストランなどの飲食店や商業施設、ホテルに対して接客や店舗の状態に適したバリアフリー化に向けたアドバイスを行っているというものでした。

さらに、それらの調査・審査を通して独自の“認証”を付与し、その情報はバリアフリー認定店としてバリアフリー情報サイトへ掲載され、一般消費者がさらに安心してその店舗を利用できる取組みをされているというものでした。

もしあの時にこの仕組みがあったら、もっと父と一緒に外食を楽しめたのでは・・と悪戦苦闘したあの高級レストランを思い出しつつ、山口さん自身も実際に4か月間車いす生活を体験され、さらに何人もの障害者の方々が結集し、作りあげられたというこの仕組みによって認証された店舗は、確実に“活きた情報”として、障害者の方とその家族にも、この上ない安心感を与えることができると、心の底から感じた一瞬でした。

外食にハードルを感じ、すっかり足が遠のいてしまっている方は、久々の外食選びとしてチェックしてみてはいかがでしょうか?

■「“できない”を“価値”に変える」
・一般社団法人 Ayumi
https://the-ayumi.jp/

・バリアフリー認証店一覧
https://the-ayumi.jp/verified-locations/

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