介護をプロに頼れない日が来てしまう不安

番号 14

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がんばってもマイナス査定、報われない“報酬改定”

先日、2024年の介護報酬改定の訪問介護費の基本報酬引下げというニュースを聞きました。
それぞれの項目で軒並み引下げられ、平均で6.6単位引下げられたということです。
1単位10円として、仮に50人/日×20日対応したとすると、66,000円/月であり、単純計算で年間約800,000円減という計算になります。

介護事業者にとっては、地域の要介護者が毎月激増し、少ない人員で何とかやりくりしながら、時には利用者からバリエーションの飛んだワガママを職人級にさばき、はたまた理不尽なクレームに神対応でスピード解決に努めたりと、一般企業でもありえない程の高パフォーマンスを叩き出してきたのに、何の理由もなく80万円近く減収されたら、モチベーションの上がる要素など1ミリも見い出せないでしょう。

ブラック企業で生きていく社員が取る行動は ただ一つ

ヘルパーさんの数を増やせず、サービスの質を担保するという“とんち”のような問題にモチベーションが下がりまくった介護事業者が導き出せる答えはただ一つ、「対応を限定させていく」の一択なのではないでしょうか?

今まで対応していたお宅にも十分な時間を割けなくなり、今まで以上に少ない時間で質の良いサービスを提供しようと無理が生じ、限られたお宅へ限られた時間に決められたサービスを粛々とやる、といった状況にならざるをえません。

さらに、地方の小規模事業者などは、広範囲で利用者をカバーしなくてはならない為、引下げの余波をモロに受けやすく、こうした事業所がもし、倒産・廃業に追い込まれでもすれば、たちまち訪問介護サービスが受けられない「空白地域」や利用したいタイミングで受けられない「対応難地域」が生じてしまいます。

現時点で要介護状態にない親を元気なうちに親族がいる都市部などに移り住む「避難」の動きも活発になり、今後の地方創成は、こういった在宅介護の体制がどれだけ充実させていけるか、という点も大きなポイントになりえます。

経済へのインパクト大 “ビジネスケアラー”がたどる道

とはいえ都市部へ移り住んだとしても「空白・難地域問題」の余波はさらに介護家族へ押し寄せると考えられます。

都心部の介護施設においても特養などでは入居待機状態となっている所も少なくなく、サービス付き高齢者住宅(サ高住)なども家賃が高く、在宅以外の選択肢しか検討できないような事情もあります。

総務省の就業構造基本調査(2022年)によれば、介護者約630万人のうち有業者は365万人で、介護者の過半数が仕事と介護の両立させている「ビジネスケアラー」というデータがあります。

ヘルパーさんの不足が加速すればビジネスケアラーのうち介護離職に転じる人が当然増え、会社でも責任や立場を築いたこの年代が介護離職に追い込まれたならば、職場はもとより社会全体にとってもダメージとなることは、容易に想像できます。

今後の訪問介護の弱体化という要素を加味すれば、経済損失額はさらに膨らみ、結果として税収が落ち込み、歳入が減ったのでは、社会保障費の伸びの抑制効果などいとも簡単に吹き飛んでしまうことでしょう。

迷うなら走るな 介護政策

国は当初、高齢社会の到来に備えて特別養護老人ホームなどの施設整備を進めましたが、利用者の急増に追い付かず、入所待機者の激増を招くと、一転して「在宅介護へのシフト」という方針転換を図り、「地域包括ケアシステム」として打ち出しました。

住み慣れた地域で暮らし続けられるよう医療や介護だけでなく、自治体や近隣地域、企業なども参画し、24時間365日体制でケアを行うという構想ですが、中心的役割を担ってきた訪問介護サービスの基本報酬を下げるという、本末転倒感しか残らない迷走を極めてます。

団塊の世代が一気に75歳以上となる「2025年問題」はもう来年に迫っているというのに、このような在宅サービスの推進に疑問を抱かせているのでは、私達の介護不安は募るばかりで、自分の身は自分で守れるよう、家族総出でいかに乗り切っていくか?を早く守備固めしなければ、どうにも手の打ちようのない状況になりそうです。

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