実録、人嫌いの母親を介護施設に向かわせたワケ
番号 6
介護施設入所で真っ先に不安になったもの
母親の介護施設入所を考えた時、真っ先に不安になったもの、それは‘‘お金”と‘‘馴染めるかどうか?”でした。
お金については母の年金額で少し足が出そうな予測がありましたが、家族で今現状出せるだけの積み立てを”母親基金”として共同口座を作り運用しました。
遠くに住んでいながらも30年間ずっと姉、兄には両親の介護について近況報告と相談をグループLINEで欠かさなかったのが功を奏し、お金のサポートの同意を得ることは非常にスムーズでお金の問題は思った以上に早く解消されました。
それよりも家族間で感じていた最大の課題は『集団生活ができるかどうか?』でした。
母は元々、自営業で両親二人で20年以上営んできた為、社会人生活は父親以外の同僚がいない挙句、子供の学校行事にもほとんど参加せず、親しいママ友のような存在やPTA活動のような集団行動をした事がないという見事なまでの「友達“極”ゼロ」状態でした。
加えて極度の人見知りで引っ込み思案という絵にかいたような『おひとりさま確定』状態に、とても介護施設で和気あいあいとレクリエーションで楽しんでいる充実の施設ライフ姿は想像できませんでした。
おひとりさま“確定”状態の母親を慣れさせたのは?
認知症が進んできたとはいえ、自分の家を離れることは明確に理解している母。
当然抵抗は激しいものでした。
介護施設の説明をする話し合いの日も、昨日まで饒舌にいろんな話をしていたにも関わらず、職員と会うや否や急に、
「全部忘れてしまいましてね・・」
と、惜しげもなく認知症の恩恵をフルパワーする母。
この先、もし私が認知症になっても、母のこの態度だけは絶対に忘れないでしょう。
それはさておき、絶妙なディフェンスをする母のガードをかいくぐって見事、足を向かせる一撃を叩き込んだのは“デイサービス”と‟ショートステイ”でした。
介護のプロが注目した“特技”とは?
引っ込み思案で人見知り、引きこもりに加え、細かく几帳面な性格がドはまりしていたもの、それは「塗り絵」でした。
私達家族としては、父が亡くなって何の趣味もない母がある日、新聞の付録にあった富士山を見事に塗り上げたのをきっかけに“大人の塗り絵”なる本を渡しては暇つぶしにやっていた程度の認識でした。
しかし、介護施設職員さんがその塗り溜めた絵を見て、
「若い人でもここまでできる人はいない・・」とびっくりして、デイサービスで披露した所、施設の方々から賞賛の嵐。
以来、入所者の方から「次はこれに塗ってくれ」とリクエストが入るほど、次から次へと次回作を期待される状況に、
「あまり表に出るのも・・」とバンクシーもびっくりするような創作意欲を沸き立たせ、ついには
「塗り絵を教えて欲しいとかうるさいから、ちょっと教えてくるワ」
と、かつて認知症の悪用をしていた同一人物とは思えぬ変わりっぷりでショートステイに誘われていきました。
かくして、数回のショートステイを経験する度、思いもよらない承認欲求が満たされた‘塗り絵先生”は、私達家族から贈られた『プロ仕様48色 色鉛筆』と共に意気揚々と正式に介護施設に入所する運びとなったのです。